本当の気持ち
(5)







 暫くして、ドアを開けトレーを持った貴章が入って来た。
 ベットに座り、膝の上にトレーを乗せる。 
 そこには、オレンジジュース・オープンサンド・野菜スープが乗っていた。
 美味しそうな匂い。

ぐぅ〜〜〜〜

大好きな貴章さんの前でお腹が鳴るなんて!
  
 恥ずかしさの余り顔が真っ赤になってしまった。
 そんな若菜がとても可愛く、思わず微笑む。

「朝から何も食べていないのだから仕方ない。 熱いからゆっくり食べな
さい」

 そう言い若菜にカトラリーを持たせる。
 空腹には勝てず、若菜はゆっくりとスープを飲む。
 スープがしっかり野菜染み込んでいる。
 しかし野菜本来の味もしっかりと残っている。
 ジュースも絞りたてだがよく冷えていて程良い酸味。
 オープンサンドは新鮮なレタス・タマネギが軽くドレッシングで和えられ、そ
 の上にサーモンが乗っていた。
 どれもとても美味しく、食べ終わった時には満面の笑みを浮かべていた。
 その笑みに貴章は心奪われていた。

「ご馳走様でした。 凄く美味しかったです」

 手を合わせ頭を軽く下げる。
 満足そうな声に、我に返った。

「そうか、作ったかいがあった」

「えっ!貴章さんが作ったんですか?」

 キッチンに立ち料理をする貴章が想像出来ない。
 忙しいと聞いていたし、大会社の社長なのだから家政婦がやっているの
 だと勝手に思っていたのだ。

「他に誰が作る?」

「家政婦さん・・・・・とか?」

失礼な事を言ってしまったかも・・・・・
 
 上目遣いで見るが、特に怒っていないようだ。

「他人をこの部屋に入れた事はない」

 愛しそうに、若菜の頬を撫でる。

「・・・・・・・・・・」

 優しい仕草、声に顔を赤らめながらも、それは一体どういう事なのか、どう
 取ったらいいのか。
 その思いが顔に出てしまう。
 複雑そうな若菜を見て、クスリと笑う。

「お前は良いんだ。 家族以外唯一入れたいと思ったのだから」

 『特別なんだ』と言われているようで嬉しくなった。
 そして、その時貴章は先程綾瀬に聞かれた事を思い出した。
 目の前にいるこの少年に関して何も知らないという事を。

「・・・・・名前。 名前を聞いていなかった」

 ドキ!!

 遂に聞かれてしまった。 

「・・・・有樹。 岬 有樹です・・・・・」

 咄嗟にもう一人の親友の名前を言ってしまた。

「・・・・・・有樹か・・」

 見詰められ、俯いてしまう。
 自分の名前を告げたかったが、二度と逢わないと決めたから。
 初めて好きになった人。
 一瞬にして自分を虜にした人。
 大切な友達の兄。
 美貌・頭脳・統率力・そして大会社の社長。
 どれをとっても自分とは釣り合わないから。

 でも今だけ、明日の日曜日までは一緒にいたい。
 この先、貴章以上に自分を魅了する人はいないから。
 若菜はそう確信ししていた。

 気持ちを切り替えよう。
 残り少ない時間、貴章を忘れないようにしっかり目に焼き付け覚えておこ
 うと。
 顔を上げ、頬に添えられていた手を両手で持ち、頬摺りする。
 そんな可愛い仕草に煽られ、若菜に口づける、
 
「ん・・・・・ふぅ・・・・」
 
 突然の深い口づけに驚きながらも素直に受け入れた。
 
「ぁふぅ・・・・・ん・・・」

 貴章の舌が中に入って来る。
 若菜の舌を絡め取り吸い上げる。
 情熱的な口づけに意識が朦朧として来る。

気持ちいい・・・・・

 口づけが首筋に落ちてくる。
 身体がビクリとなり、意識が戻って来た。

「あ、あの貴章さん・・・・・・」

「どうした?」

「僕、お風呂に入りたいんですけど・・・・・」

 昨日の行為の後、風呂に入った記憶は無かったが身体はサッパリとして
 いる。
 考えたくはないが、貴章が拭いてくれたのだろう。

疲れた時にはお風呂に入るのが一番!
 
 貴章はすっかりその気になっていたが、若菜にそんな事は分かろうもは
 ずも無く、兎に角疲れを取りたかった。
 
 上目遣いのお願いモードの目に理性が切れた。

「後で私が入れてあげよう」

 そう言ってまた行為を始める。
 咄嗟に文句を言おうとしたが、若菜は敏感な部分をまさぐられあえぎ声し
 かでなかった。
 貴章はその声と身体を味わい尽くす。
 終わった時には若菜は気を失っていた。
 
 しまった、と思ったがどうしても離せなかった。
 自分のコントロールが出来なかったのだ。
 こんなに自分を熱くさせる若菜を手放すことは出来ない。
 自分には無くてはならない存在となっていた。
 気を失った若菜を抱き上げバスルームに行き丁寧に清めベッドルームに
 連れて行く。
 大きめな自分のシャツを着せ、新しく取り替えたシーツにそっと若菜を降ろ
 し自分もその横に寝て抱き込む。

「有樹・・・。 岬 有樹か・・・・・」

 本当なら明日もこうして一緒に過ごしたかったが、外せない予定が。
 苦々しく思いながらも、穏やかに眠る若菜の顔を見ている内に貴章も眠り
 に落ちていった。


 次に若菜が目を覚ました時には貴章の姿はなかった。
 ベッド横のサイドボードが目に入る。 
 『どうしても外せない予定があり出かけなくてはいけない。食事をリビング
 に用意してある。 早めに帰るからゆっくりして待っているように』と書かれ
 たメモが置いてあった。

今日一日、一緒にいられると思ったのに・・・・

 時間は朝の10時。

 本当ならこのメモに書いてあるようにゆっくりと貴章の帰りを待ちたかっ
 た・・・・
 でも一番の親友を悲しませたりする事は出来ない。
 この一年半で綾瀬は本当に大切な人になった。
 失いたくない。

 貴章とはたった二日。 
 このまま会わなければこんな地味な自分の事は忘れてしまうに違いない。
 凄く寂しかった。
 初恋で、二日だけだったが幸せだった。 

よく、『初恋は実らない』っていうけど本当なんだ・・・・

 用意されていた食事をとり食器を洗いかたづける。
 ベッドも綺麗に整え、服を着替え、シャツをたたみシーツの上に置く。
 暫くシャツを見詰めていたがそれを手に取り部屋を出ていった。



 夜の8時を過ぎ帰宅した貴章。
 玄関を開けるとセンサーが反応し明かりが点く。
 リビングに入ると今朝若菜のために用意した食事がなく、食器もきれい
 に片づけられていた。
 無理をさせた身体ではキツかっただろう。

 寝ているのかと思い寝室を覗く。
 そこには姿はない。
 整えられたベッド。
 今朝までいた愛しい者の形跡すら残っていなかった。

何処へ・・・・・

 焦り他の部屋も覗くがやはり姿はない。
 玄関には若菜の靴がなかった。
 携帯を取り出し何処かへ連絡を入れる。
 若菜と出会って初めて知った幸福な時間を。 
 必ずもう一度手に入れると誓ったのだった。





Back  Top  Next





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送