初めてのデート(3)


キリ番5000Get りんりんさんよりのリクエスト
初めてのデートで温泉をとの事で。
少し長くなりそうです。
『本当の気持ち』








ドカッ

「ぐほっ!」

 今度は綾瀬の拳が、楠瀬の鳩尾に。
 身体をくの字に曲げ呻く。
 少しは手加減してくれたのかも知れないが、かなり苦しい。
 突き刺さる様な視線を感じ、苦しいながらも顔を上げると、貴章が凍っ
 た表情で全身から怒りを放っていた。
 あまりの恐怖に、苦しさを忘れる程。

恐え〜〜

 藻掻いている楠瀬に一別をくれ、助手席のドアを開け若菜をエスコート
 し乗せる。
 そして自分も運転席に乗り込んでしまう。
 続いて綾瀬も。

「このまま置いて行かれたいのか?」

 貴章の冷たい言葉。 
 本当に置いて行かれそう気配を感じ、苦しい身体に鞭を打ち慌てて乗
 り込む。

「さ、若菜メガネを掛けなさい」

「はい」

 楠瀬に向けた視線とは打って変わって優しい言い方に眼差し。
 当然そんな優しい貴章を見た事のない楠瀬の驚愕は凄かった。

一体、誰?
別人、二重人格?
お兄さんあんた凄いよ・・・・・・

 若菜を見ると、ポケットからメガネを取り出し掛けていた。
 以前、街で会ったダサイ若菜がそこに居た。
 目の前での変化に、ついて行けない楠瀬。
 
「お前のせいで出発が遅くなった。 既に7時を回っているだろう」

 横から綾瀬の冷たい言葉。

やはり愛は何処に・・・・・

「悠二、綾瀬との事を認めさせたんだ。 それなりの事はして貰う。 若菜
のメガネは絶対外させるな。 万が一という事もあるかも知れない。 何が
合っても必ず二人を守れ。 それが私からの最低限の言葉だ」

 車を静かに走らせ、ミラーで楠瀬を見ながら静かに言う。
 若菜が一緒な分、言い方もいつもよりは柔らかいが、かなり緊張を強い
 られる。 
 ゆっくり出来るのであろうか。
 
 そんな楠瀬を余所に、若菜は楽しそうにはしゃいでいた。
 
「僕ね、家族以外で旅行に行くの初めて。 昨日なんか、ドキドキしちゃ
ってなかなか寝られなくって。 貴章さんと綾瀬と一緒で凄くうれしいん
だ」

 嬉しいという気持ちが、身体全体から溢れ出ている。
 顔を赤く、少し興奮気味で一生懸命話している若菜に、時折相づちを
 入れながら、貴章も微笑む。
 突然ゴソゴソと鞄を漁り始める若菜。
 
「どうした」

 と貴章が聞くと。

「電車で行くと思ったから、朝ご飯食べてなくって。 お腹空いちゃって」

 えへへ、と笑う。

「どうして電車だと食べないんだ」

「駅弁買って、食べようと思って。 電車での旅は駅弁でしょう」

 拳を握り力強く言う若菜に、苦笑してしまう。

「それはすまなかった。 次は電車で行こう」

「はい!」

 とても楽しそうだ。
 前二人の会話に後ろ二人は驚きを隠せない。
 駅弁を語る若菜もそうだが、素直に謝り笑う貴章が信じられない。
 こんなに楽しそうな貴章を見たことがなかった。
 
「綾瀬、あれお前の兄さんだよな・・・・・」

「そうらしい・・・・」

「俺、初めて見たんだけど」

「俺もだ」

 小声でヒソヒソ話す。

「マジ、本気なんだ」

「それは、どういう意味だ」

「だって、絶対そんな風に見えないだろ」

「・・・・・・・・・」

 自分としても、兄がこんなにも誰かに執着するとは思わなかった。 
 只若菜なら兄の気持ちも分かる。
 飛び抜けた美貌もそうだが、中身が素直で可愛いのだから。

 ゴソゴソしていた若菜が鞄からバナナを取り出した。
 どうして、そんな所にバナナが。

「貴章さんも食べない?」

 ニッコリ言われ、とても困った。
 若菜にバナナ・・・・・
 逢わなかった分、貴章の欲望も高まっている。
 それを煽るような若菜。
 今は止めて欲しい。

「若菜、バナナは止めなさい・・・・・・」

 キョトンと貴章を見る。
 後ろ二人、その言葉の意味を悟る。
 惚けた若菜と、ストイックな貴章の情事は想像できないが、何だか生
 々しい。
 
「関越に入ったらサービスエリア(SA)に寄るから」

「はい。 じゃあ蜜柑にしておきます」

 出発が遅かった為に、首都高が込んでいる。
 一頻り喋り蜜柑を食べ少しお腹が一杯になった為眠くなり、知らない間
 に寝てしまっていた。

 その後関越自動車道に入り、SAに入る。
 寝ている若菜を起こすのは忍びないが、後の事を考えると、今起こして
 食事をした方が良い。
 
「若菜起きなさい、食事をしよう」

 優しく揺り起こされ、目を覚ます。
 寝ぼけていたが、貴章のもう一度「食事」という言葉に意識もハッキリと。
 そんな若菜に苦笑してしまう。 
 可愛くて仕方ない。 

 先に車を降り、助手席のドアを開け手を差し出す。
 何の迷いもなく手を取り、そのまま手を繋いで歩きだす。
 
 こんな公共の場で、男同士が堂々と手を繋いで歩く姿はかなり異様。
 メガネを外せば美貌で違和感はないのだが、そのままの姿はとてもダ
 サイ。
 貴章が美形なだけに目立つ。 
 外しても外さなくても結局は目立つ事なのだが。
 奇妙な組み合わせの後ろから二人がついて行く。
 
 レストランに入った時、違ったタイプの美形達に他の客の視線が釘付
 けになっていた。
 そんな視線を気にもせず、それぞれ注文。
 食事をしSAを後にした。
 お腹も一杯になり、景色も変わって紅葉が増えてくる。
 大好きな人達が傍にいてすっかり満足な若菜。
 高速を下り、国道を走る。
 紅葉も色濃くなる。
 それにしたがって、車も増えていき道が混む。
 着いた時にはお昼近かった。

「やっぱり週末は混んでるな。 どうしますか兄さん。 先に荷物を置き
に行きますか。 それとも本格的に混む前に昼食を取りますか」

 混んでいるだろうとは思っていたが、予想以上だった。
 食事をする場所は既に決めてある。
 去年オープンした久我山グループのホテルだ。
 視察も兼ね、そこで食事する事にしている。

「そうだな、先に食事にしよう」

 車をホテルに向け走らせる。
 暫く走らせるとホテルの入り口があり、さらに2分程でホテルに着く。
 しかしホテルの前に着けるのではなく、そのまま通り過ぎる。
 不思議に思い貴章を見た。

「ホテルの中にもレストランはあるが、高く入りづらいという雰囲気がある為
同じ様なレストランを少し離れた場所にも作った。 若い人にはイタリアン、
年配者の事も考慮し和食処。 女性の好みそうな外観、雰囲気の店を。
値段は安いがホテルと同じ値段だ。 ここで安さと美味しさを感じてくれ
れば次に来た時に混んでいても、ホテルに行けば同じ物が食べられる。
ホテルの外観に気を取られ、入りづらいと思っても、中に入れば落ち着い
た雰囲気で気に入る筈だ。 それを気に入り次回からこのホテルを利用
して貰えるようにする。 宿泊代も少し安めだ。 口コミで段々と人が増え
て来ている」

 車を走らせ説明してくれた。
 メガネの下で目をキラキラと輝かせながら、尊敬の眼差しで見詰めてい
 た。

 貴章はイタリアレストランの方へ車を着けた。
 写真で見たイタリア郊外に建てられている様な作りの外観。 
 中に入ると既に混んでいたが、直ぐに席に案内された。

 ここでも彼らは目立っていた。
 店の中も、「友達の家にちょっと遊びに来ました」という感じで何だかリ
 ラックス出来る。
 メニューには「自家製、無農薬野菜を使用」と書かれている。
 若菜は迷うこと無く「シェフお勧めランチ」を頼む。 

 自家製サラダ、スープは三種類(キノコ、コンソメ、カボチャ)の中から選
 び、特製釜で焼いたパン、メインはピザかパスタでやはりそれぞれ三種
 類の中から選び、デザート、ドリンクがついていた。
 これで1500円なのだから、かなり安い。
 他三人も「お勧めランチ」を注文した。
 
 奥窓際の四人掛けのテーブル。
 若菜の右横に貴章。 前には綾瀬が。
 運ばれて来た料理を食べる。

 カボチャのスープはコクと甘みがありとても美味しかった。 トマトのパス
 タは程良い酸味。 
 隣りの貴章はチーズのパスタ。 
 熱々のパスタを大きく中心をくりぬいたチーズの中に入れ、熱で溶かし
 絡めた物。 
 目の前で絡められるパスタに食欲をそそられる。
 思わす食べる貴章を、物欲しそうにジッと見詰めてしまう。
 視線に気づき苦笑した貴章は、パスタをフォークに絡め若菜の口元へ。

「口を開けなさい」

 目の前に差し出されたパスタを、嬉しそうに口を開け貴章に食べさせて
 貰った。
 
モグモグ・・・・
 
 食べ終わると、今度は若菜がトマトパスタを絡め貴章の口元へ。 
 躊躇無く食べさせて貰う。

 唖然とする前の二人。
 幾らなんでも、今時こんなバカップルはいないのでは・・・・・
 しかもあの、人に冷たく厳しい無表情の貴章が・・・・・・
 若菜に恋をし、ここまで変われる貴章も凄いが、変えてしまった若菜の
 の方が二人には恐怖だった。





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