幸せになりましょう(1)







カコ―――――ン

 遠くから聞こえて来る鹿威しの音。

「・・・・・・はぁ?」

 叶(かなえ)は母春香が言った言葉が理解出来なかっ
 た。

「ですから、あなたの嫁ぎ先が決まったんですよ」

 ニコニコと同じ言葉を叶に伝えた。

「・・・・・・・・」

 不安になり、母の隣りにいた父雅人の顔を見ると真剣
 な顔で頷く。





 今日は叶の18回目の誕生日。 
 両親から「大切な話があるから正装して座敷に来るよう
 に」、と言われ先週新調したアイボリーのスーツに着替
 えて行くと、同じく正装した両親がいた。
 来客予定があるらしいが、相手はまだ来ていなかった。
  
「座りなさい」

 言われ黒檀で出来た年代物の座卓を挟み、正座をし正
 面から2人の顔を見る。
 雅人は複雑そうな顔をし、春香はニコニコと嬉しそうに
 微笑んでいる。

「叶、18回目の誕生日おめでとう。 以前から話しをして
いたが、藤之宮の家では女子は16、男子は18になると
婚約もしくは結婚する事になっている」
 
 真剣な顔で雅人は話し始めた。

はて、そうだったであろうか?

 叶が顎に手を当て考えている姿を見、雅人はため息を
 つく。

「忘れていたのか?」

 こっくりと頷く叶。
 雅人は呆れ顔。 

「隼人も18で婚約しただろう・・・・・」

 7つ上の兄隼人は当時つきあっていた彼女と18で婚約
 し、今年 の春メデタク結婚した。  あまりにも婚約期
 間が長かった為すっかり忘れていた。 自分に言われた
 事などさらに覚えていなかった.。

「私達もよ。 私が16のなった時にお父様と婚約をして、
高校卒業と同時にお父様が婿養子に来たの。 お爺様も
18になった時にお祖母様と一緒になったのよ」

 春香は、雅人の顔見てニッコリ笑う言う。
 雅人は婿養子と言われ、苦虫を噛み潰したような顔に。
 事実そうだし、春香をとても愛していたからすんなりと婿
 養子に入った訳だが。
 雅人は気を取り直して

「今お付き合いしているや、好きな人はいるのか?」

 と聞いてみた。

 絶対そんな相手はいないと思ったが、とりあえず聞いて
 みた。
 いれば直ぐにでもこの結婚を断り、その相手との話を進
 めてしまいたい位、賛成したくない結婚だった。
 そして雅人の思ったとおり、叶は生まれてこのかた付き
 合った事もなければ、初恋もまだだった。

「いいえ」

 首を振る。

「お客様がお着きになりました。」

 障子の外から声がかけられた。 
 すぐに雅人は「お通しして。」と返事をする。

「今着いた人は、お前の伴侶、結婚相手だ」

 特に驚きもせずに「そうですか。」と返事をした。

「・・・・・・・」

 雅人は心配になった。
 昔から叶は両親に逆らった事はなかった。 着る物、食
 べる物、学校の進路も。
 逆に、兄隼人は逆らったというよりは自分の思うように生
 きていた。
 そして手が掛かった。 唯一すんなり行ったのが結婚に
 関してだけだった。 
 体格・容姿も全く異なっている兄弟。
 兄隼人は背も高く、体型もガッシリとしてスポーツマン体
 型。 太い眉に、キリッっとしたした目元。
 鋭い眼光で人を射抜く。
 それに加えて、叶の容姿は母親譲り。 
 濡れ羽色の絹の様な黒い髪、大きく潤んだ黒い瞳、極
 め細かい雪の様に白い肌、ふっくら艶やかな赤い唇。 
 日本人形のような美人。
 公家の流れを汲むだけあって、どこかおっとりとしてお
 り、気品がある。

本当に手の掛からない子で良かったんだが・・・・・・

 しかし今回の結婚に関してだけは、自分の一生に関す
 る事だけにきっと何か言うだろうと思ったのだが・・・・。

 当の叶は

結婚相手。
可愛いのであろうか? 
はたまた美人か? 
年はいくつなのであろう?     
  
 意識は結婚相手に向かっていた。 人生を決める大切
 な出来事なのに。
 別に面倒くさい訳ではなかった。 
 取り敢えず両親の言う通りにしていて困った事、悪い事
 が今までなかったから。 その代わり良いこともなかった
 が・・・・・・。
 そのおかげで『長い物には巻かれろ』な子になってしま
 た。
 
「お相手の方は、叶さんの結婚相手を探しているって何
処からか聞かれて、雅人さんに直接、結婚の申し込みに
いらっしゃったのよ。 素敵ね〜」

 などと言っている。

「・・・初めはお断りしたんだが」

 チラリと横の春香を見た。

「藤之宮の、男の子とは言えど叶さんの事を、妻に迎え
たいと言うからにはって、御爺様の所にもご挨拶に行か
れたのよ。 『若いのにしっかりしている。 あれは世界
を動かす事の出来る男だ』、って御爺様がとても気に入
られて。 私も直接お会いしたけど、とても素敵な方なの
よ。 横に並ぶと凄くお似合いの美男カップルね〜。 で
も叶さんは綺麗だから美男美女カップルかしら〜」

 ハートマークを付けながら喋っていた。

美男カップル?? 美女カップルになるのでは・・・・? そ
れも違う気がするが・・・・。

 ボケていた叶。
 そこではたと気付く。

・・・・・・・妻?





    




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