お試しください
(後編)






 素は一ノ瀬を指さし、聡に食って掛かった。

「先生! この兄弟ムチャクチャ失礼です!」

『やってしまった・・・・・・・・・』  

「桜君の時も腹が立ちましたが、今回はもう、もう・・・・・! 高校生に間違
われ挙げ句に可愛いだなんて! 私服ならまだしも、俺看護服ですよ。 
どうしたら同級生に見えるんですか! 25ですよ、25!」

 さっきより酷い切れ方に二人はオロオロしてしまう。 
 そんな素を見て一ノ瀬は固まってしまった。

『社会人でしかも25歳・・・・・・・・。 あり得ない。』 

 ハッキリ言って服は見ていなかった。 
 受け付けから中に入ると桜の横に真剣な顔で励まし、出来た時二人で
 手を取って全開の笑顔が凄く眩しかった。
 自分を見て欲しいと思い声をかけた。
 振り向いた 時の顔に落ちた自分を自覚した。 

 自分を見詰めるアーモンド型の大きく少しつり上がった目、半開きの赤い
 唇にそこから覗くピンクの舌。
 誰もいなければ迷わずその唇を奪っていただろう。
 自分の自制心を最大限にし、初めて自分から口説き始めた。

 この際高校生だろうが、桜の友人だろうが関係ない絶対自分の物にす
 ると決めたのに・・・・・・・・・・

『失敗した・・・・・。 まさかここまで怒らせるとは。』
 
 真っ赤になって聡に文句を言う素がまた可愛く、その視線も自分の物
 にしたかった。
 思わず素の腕を掴み振り向かせ唇を奪った。

 一方突然唇を奪われた素は真っ白になっていた。 
 抵抗の無いのを良いことに一ノ瀬は傍若無人に振る舞う。 
 そして一緒にいた聡と桜も、あまりの突然の出来事に固まっていた。

「・・・・・・・ん・・・・」

 その声に固まっていた二人が復活する。 
 聡は呆れ、桜ま真っ赤に。

「お前人の職場で職員に何をする・・・・・」

「兄さん! 信じらんない素さんになんて事を・・・・・」

 一ノ瀬はそんな二人を横目でチラリと見て素の口の中を犯し続けた。
 唇を離した時には素はグッタリと力が抜け放心状態。
 一ノ瀬が支えていなければ立っていられなかった。
 すっかり満足した一ノ瀬は素を抱きしめ自分の物と決めていた。
 素が正気に戻る前にもう一仕事。
 優しく耳元で囁く。

「素、俺と付き合わないか。 絶対満足させてやる。 ダメなら別れても
いいから。 取り敢えず試しに付き合おう。 うん、と言え」

 満足に考える事の出来ない素に強制する一ノ瀬に二人は『悪魔だ』と
 思った。 
 きっと正気に返ったとき文句を言われても、『二人が証人』だと言って取
 り合わないに違いない。
 こんな悪魔に魅入られた素を不幸に思う二人だった。
 
 あまりの気持ちよさに意識を飛ばしていた素。 
 一ノ瀬になにを言われたのかサッパリ理解出来なかったが、あの心地
 よい声に「うん、と言え」と言われたら迷うことはなかった。

「うん・・・・・」

 一ノ瀬はニヤリと笑い、桜は、強引で勝手に付き合うことにさせられた
 素には申し訳なく思う。 
 しかしこんなに嬉しそうな兄を見ていたら応援するしかないだろう。 
 聡も、人に対してこんなに強引でなりふり構わい一ノ瀬を見るのは初め
 てだった。 
 職員に起きた突然の不幸を可哀想に思いつつ、陰からフォローしてや
 ろうと決めたのだった。 
 でも抵抗しない素を見ていたら必要ないのかも。 
 実際にはバカップルになりそうな予感もしていた。

「じゃあ帰るか」

 素を連れてサッサと帰ろうとする市ノ瀬。

「待て、まだ診療時間だ。 勝手に職員を連れ出すな」

「そうだよ兄さん。 僕まだ練習中なんだから素さんを連れていかないで
よ」 

 素との甘い時間を過ごそうと思っていたのに二人に文句を言われ、途端
 不機嫌に。

「もう患者は来ないだろ。 それに来たとしても混むわけがない。 桜お前
も今日は頑張った。 不器用なんだから慌てて一日でしなくてもまた次に
ゆっくりと練習すればいい。 それに今日は素には無理だ。」

「お前のせいだろう」
「兄さんのせいでしょ」

 二人そろって文句を言う。
 自分のせいなのに、なんて面の皮が厚い。
 呆れながら更に言葉を続けようと聡が口を開ける。

「ふう・・・・」

 遠くへ意識を飛ばしていた素が復活した。

「!!」
「な、なにするんですか!」

 顔を真っ赤にして一ノ瀬に喰ってかかる。

『なんて鈍い・・・・・』

 三人揃って同じ事を思う。

「さあ素帰るぞ」

 素の腰を抱き促す。 
 その腕から離れようと必死になるが外れずジタバタもがいて抗議する。

「ちょっと待って下さい。 どうして俺があなたと帰らなくちゃいけないんで
すか。 それにまだ仕事中です。 離して下さい馴れ馴れしい。」

「そうだ一ノ瀬、さっきも言ったが仕事中だ。 離せ、一人で帰れ。」

 二人に文句を言われても何処吹く風、素を引きずって行く。

「うるさいぞ横田。 恋人達の甘い時間に文句を言うな、無粋な奴だ」

「誰が恋人だ―――!」 

 失礼な奴だが年上でDrで初対面。 
 言葉遣いにも注意していたが、切れた素にはどうでも良くなっていた。
 人だがこんな奴の恋人になるなんて嫌だし自分の身は可愛い。 
 何とかしなくてはいけない。
 でも顔は良いし声も好み。
 ただ性格は勘弁してほしい。
 恋人はやっぱり可愛い女の子がいいのだ。

「俺は可愛い彼女を作るんだ。 離せ〜」

「お前には無理だし、誰が離すか。 さっき『試しに付き合うか』と言ったと
き『うん』と言った。 だから俺たちは恋人同士。 それにもう5時過ぎた
から仕事は終わりだ。」

 時計を見ると確かに5時を過ぎていた。 
 待合室には誰もいない。 
 受付から添田がこっそり覗いていたが、視線をむけられ慌て、直ぐさま
 愛想笑いを浮かべる。

「お疲れ様でした。 どなたもいらっしゃらないですから安心して下さい」

この状況で何を安心しろと? 
桜君は患者だろうが

 何故か目を輝かせて見ている添田が憎たらしかった。 
 そしてなにより、一番この男が憎たらしい。
 真っ赤な顔で睨みつける。

「ギャラリーが多いからといって照れるな。 さあこれで心おきなく帰れる
ぞ」

「照れてもいないし、帰る気もない。 まだ仕事中だ。 ね、桜君!」

 いきなりふられ焦る桜。 
 確かに自分は患者でコンタクトも途中だ。
 素も仕事中。 
 恐る恐る一ノ瀬を見ると・・・・

「!」

怖い! 
兄さん、怖すぎる〜〜〜

 顔は笑っているが目がマジ。
 もの凄い威圧感を桜に与えている。
 普段はとても優しい兄。
 だが切れた時周りに与える被害凄まじく、それを目の当たりにして来た
 桜には、逆らう気はさらさらなかった。 

「ぼ、僕は今日中には無理だと思うし、やっぱり焦らずゆっくりと練習した
ほうがいいと思うのでまた明日来ますから。 素さんも疲れたはずだし・・
・・・」

「そんな事ないよ! 桜君上手に出来てたし。 後もうちょっとなんだから
さ」

 思いは違えど二人はそれぞれ必死。
 そんな彼らを哀れに思い、聡が助け船を出そうとするが・・・・・ 

「そうだ横田。 お前欲しい医学書があるって言ってたな」

 ピクリ

「それに今度ドイツである研修会に行きたいって言ってたよな」

 ピクピク!

「その間うちの叔父貴に手伝って貰うてい・・・・」

「ああ、素君お疲れ様。 片付けはやっておくから帰っていいよ」

 聡の突然の変わりように、素は口をあんぐりと開け呆然となる。

「先生!」

「一ノ瀬今の件は間違いないな」

「勿論だ。 本は俺が持っているし、研修の方も手を回す。 叔父貴には
貸しが山のようにあるからな」

「そうか。 あ、素君明日は休みにしておくから」

 勝手に話しが進んでいく。
 味方だったはずの雇い主にまさか売られてしまうとは・・・・。
 
敵は三人 
もうダメなのか

 涙目で一ノ瀬を見る。
 その潤んだ瞳で見つめられた一ノ瀬はドキリとし、腰に回した腕が思わ
 ず緩む。
 
『今だ』

 咄嗟に抜け出す素だが、すぐに捕まえられた。

「離せ〜」

「誰が逃がすか」

「お前なんか嫌いだ〜」

「つれないな。 素と俺の仲だろ。 洋人って呼べ」

 耳元で囁かれ顔を真っ赤にする。

「誰が呼ぶか。 素、素って馴れ馴れしい。」

 まだまだ暴れそうな素を大人しくするために唇を塞ぐ。
 またもやあっさり唇を奪われた事に腹を立て藻掻くがビクともしない。
 
「んー、んん――」

 ちょっと本気を出したキスに意識が朦朧としていく。

『ダメだ・・・気持ち良すぎ・・・・・」

 最後の仕上げと貪る。 
 そんな姿に二人はため息を吐き、受付の方では「きゃ〜」と目をランラン
 とさせながら添田が見ていた。
 急に素の腕がダランとなり、一ノ瀬は唇を離した。

「お前なにも気絶するまでしなくても・・・・・・」

「・・・・ふん。 ところで素は一人暮らしなのか」

 人の話しを聞いていない一ノ瀬。
 
「・・・・・そうだ」

「送って行くから住所を教えろ」

おかしい・・・・送るよりもホテルに直行じゃあないのか? 

 そう思いながら一ノ瀬を見る。
 その視線の意味にニヤリとする。
 悪魔のようなその笑みに、二人は胡乱な目で一ノ瀬を見る。

「なんだその目は。 俺は紳士だからな。 気を失った人間にどうこうする
気はない」

『『嘘だ!絶対嘘だ』』

だが・・・・・

兄さんに逆らったら酷い目に遭う・・・
一ノ瀬に逆らったら、約束を取り消される・・・

 取り敢えず黙っていれば被害はない。
 二人は即座に判断した。

「早く教えろ」

 聡を急かし素の住所を手に入た一ノ瀬は携帯を取り出て何処かにし連
 絡を入れる。

「俺だ今から言う住所に行って全部引き上げて俺の所に持ってこい・・・
あ〜? 出来ないとは言わせないぞ。 ・・・・・・そうだ、分かればいい。
ダブりそうな電化製品はお前の方で始末しろ。」

 言いたいことだけ言って切る。 
 相手も一方的な命令に抵抗はしたらしいが、何か弱みを握られている
 のか最後には大人しく従う事にしたらしい。

 用は済んだとばかりに喜喜としながら素を抱き上げ出て行く。
 それを見送り『『やっぱり悪魔だ』』と思うのであった・・・・・。
 目が覚めた時、無理矢理同棲状態になっても、あっと言う間に愛の巣と
 化すだろう。
 強引だが男前、自分から欲しいと思った物は絶対離さない男だから。 





      





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