求める心
(1)


キリ番44444をGetされたレイコ様からのリク





 手に入れた獲物が逃げた。
 高い熱が出ていたのに、歩くのも辛かった筈なのに。
 
 たった10分。
 ほんの少し、目を離した隙に逃げ出した。

 獲物の座っていた席の隣の老人に「ここに座っていた若い
 男は何処へ行った」と聞くと、「あんたがいなくなって直ぐに
 出て行ったよ。 あんなに赤い顔でフラフラして」と心配そう
 に言われた。
 その言葉を聞いた瞬間、恭夜経験した事もない怒りがこみ
 上げて来た。

 恭夜は自分では気が付かないが、相当凶悪な顔をしていた
 らしい。
 老人と回りにいた者が脅えていたのだから。

「お前な・・・・大丈夫ですよ。 来い」

 隣にいたこの病院で働く年上の知人、外科医の一ノ瀬が老
 人に謝り、恭夜の腕を掴みその場を離れた。

 一見優しそうに見え、人当たりのいい一ノ瀬だが本当の姿
 ではない筈。
 他の医師達とは明らかに違う。
 見た目も内面も凶悪な恭夜を前にしても全く態度が変わらな
 い。

 他の医師やスタッフ達は、極力拘わらないようにしているの
 が分かる。
 恭夜がこの病院の院長の息子だから敬遠されるのかという
 事ではなく、恐ろしくて近づけないのだ。
 
 二つ上の兄敬は、無表情で話し方も淡々としているが、自
 分から挨拶をし、話しかけてくる看護士、医師に丁寧に答
 えている。
 その為誰からも好かれていたりする。
 ここではそうしているが、他の場所では自分の気に入った
 者しか相手にしない事も恭夜は知っている。
 
 もう一人兄、7つ上で医大に通っている浅葱も受けはいい。
 明るく飄々としている。
 良く言えば社交的。
 悪く言えば軽い。
 だがこの兄、この癖のある兄弟の兄であるだけあって当然
 癖がある。
 それを外に出していないだけ。
 実に厄介。

 その兄浅葱は二人の弟を可愛くて仕方ないらしい。
 愛想はないが綺麗な敬。
 見た目も性格も凶悪な恭夜。
 一癖も二癖もある弟達だが、可愛くて仕方ないらしい。
 くせ者であるだけに、弟達の事が可愛いなどと言えるのだ
 ろう。
 他人の事はどうでもいいと思っている恭夜だが自分の家族
 は要注意。
 下手な手出しをして刺激しなければ特に問題はないのだ。

 そんな長兄浅葱を、一ノ瀬は上手く手懐けているのだ。
 
見かけには騙されるな・・・・・・

 用心しながら一ノ瀬の事を見る。
 
「いいか恭夜。 お前みたいな、奴に睨まれたら心臓の弱い
老人なんかポックリ逝っちまうんだから。 病院内ではやめて
くれ。 で、なんだお前、逃げられるくらいな事をした訳だ?」

 ギロリと一ノ瀬を睨み付ける。
 他の者はその一睨みで許しを請うだろうが、一ノ瀬は肩を
 竦めただけ。
 まだ中学生。
 それも2年なのに醸し出す威圧感はそこら辺にいる大人よ
 りも大きかった。
 一ノ瀬のとっては可愛いだけのもの。
 
「逃がすものか・・・・・・」

 低い唸り声。

「・・・・程々にな」

 苦笑した顔が癇に障る。
 一ノ瀬は恭夜に背を向けその場を後にしようとしたが、途中
 足を止め「今のお前じゃ、また逃げられるぞ」と一言を残して
 行った。 
 
余計な世話だ
逃がすものか・・・・・ 

 つい10分前まで手の中にあったものが無いだけで、言葉
 には表せない喪失感が恭夜の中を占めていた。

こんなにも、自分が欲しているのに・・・・

 噛み締めた唇からは血が流れていた。
 大人しく自分の手の中にいたと思っていただけに怒りは治
 まらない。
 
待っていろ・・・・・・
 
 忌々しそうに手近にあった椅子を蹴る。
 蹴られた椅子には人が数名座っており「ひぃっ!」と悲鳴を
 あげる。

 回りにいる者も、関わり合いに為りたくない、とばっちりを受
 けたくないと視線を逸らし震えていた。
 待合いには恭夜より年上の者が多く診察前にも拘わらず人
 が溢れていたが、誰も注意する者はいなかった。

「チッ!」

 うっと惜しい視線、雰囲気に舌打ちをしその場を後にした。

 こんな事なら私物を漁っておけばよかった。
 そうすれば名前くらいは分かった筈。
 逃げられる事など全く想定していなかった。
  
あんな身体で逃げやがって!

 イライラしながら道端の自販機やらなにやらを蹴っていく。
  
 身長もそれなりにあり、体格も良い。
 髪の毛は金髪。
 鋭い眼光。
 そういった外見もあったが、雰囲気が違うのだ。
 迂闊に近づいたらただでは済まないだろう。
 特に老若男女拘わらず、自分に害をなす者、邪魔をする
 者は逆らう気力がなくなるまで叩き潰した。
 そんな事もあり恭夜に逆らう者は少なくなった。
 だが、何処にでも馬鹿はいる。
 恭夜を倒せば自分に箔が付くと言って向かって行く愚かな
 者。
 そういった者には時に念入りに、二度と自分の目の前に
 現れる気力が起きないくらい、その事が悪夢となって魘さ
 れるくらいに。

 近くにあったバス停のベンチを思い切り蹴り上げる。
 ベンチは勢いよく、近くの木にぶつかり壊れた。
 必ず探し出し、今度こそ逃げられない様に。
 そして、確実に自分の物にすると。

 直ぐに見つかると思っていた。
 直ぐにでも見つけられると思っていた。

 なのに獲物は一向に見つからない。
 イライラだけが募っていく。

 最低3日。
 この間獲物を見つけるのは無理だと分かっていた。
 恭夜が赴くまま獲物を貪ったから。
 その行為が初めてだという事は初めから分かっていた。
 なのに抑えが効かなかった。
 そのせいもあって、あの獲物は翌日高熱を出し倒れた。
 だから数日は諦めていた。

 しかし、2週間たった今も獲物は見つからない。
 余程具合が悪かったのか、それとも自分に会ってしまう事
 を恐れ出歩いていていないのか。

 唯一分かっているのは獲物が通っていた進学塾。
 そこに居ればもしかしたら捕まえる事が出来るかもしれな
 い。
 大きな進学塾、来ている人数もかなりのもの。
 一度そこに入って行こうとする者を捕まえ、獲物の特徴な
 どを言ってみたが、その男は怯えながらも知らないと答え
 た。
 
使えない・・・

 始め見たとき獲物は友人らしき人物一緒にいた。
 そいつを見つければとも思ったが、一緒にいた男の顔など
 まるで覚えていない。
 手がかりはこの塾のみ。
 だが獲物は見つからなかった。





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