休日の過ごし方
(6)

20万Hits企画




 一ノ瀬と誌音の戦いが始まろうとしていた。
 しかし、そう思っているのは誌音だけ。
 一ノ瀬は誌音など敵ではない、丁度いいオモチャくらいにしか思ってない。
 周りもそう思っていた。
 
 クラウスには、獅子とハムスターの戦いに見えていた。
 当然ハムスターは誌音だ。


今日という今日は許さない!
今日こそ目に物見せてくれるわ〜

 そう思いながらも全く何も思い浮かばない。
 取り敢えず、怒鳴っておこう。

「僕の何処が我が儘なのさ! それに龍生は僕が好きなの。 僕が一番美人で優しい
の!」

「ふん・・・・。 まあ、そんな事はどうでもいい」

「よくない!」

 更に誌音はギャーギャー何か言っているが無視だ。
 話しを続ける。

「今回は急な事と、堀田の休みを潰す事になったからそれなりに礼はする」

「礼だって!? 礼より仕事を取り消してよ」

「箱根、京都沖縄、北海道。 それともハワイ、韓国何処がいい」

えっ?
それは一体?

 急に何処がいいと言われてもなんの事か、全く分からない。
 
「一ノ瀬・・・・・」

 堀田には一ノ瀬の言わんとしている事が直ぐに分かった。
 物で釣る気だ。
 普段の一ノ瀬からは考えられないくらいの大盤振る舞い。
 去年のクリスマス以来だ。

 あの時は、一ノ瀬が素の為に24日の某ネズミキャラクターのいるレジャーランドのチケッ
 トと近くのホテル を予約しろというものだった。
 日もなく、「取れるか!」と言ったが、無理矢理取らされた。
 序でに自分達の分も。
 ダメで元々と思い一ノ瀬達の分と一緒に金額を請求したが、速攻で却下された。
 だが、一緒にいた素が「いつも迷惑かけてるんだから払って当然だと思うけど。 
 無駄なお金使うより、こっ ちの方がお金も喜ぶ」天使の一声を。
 渋々とだが払ってくれた。
 そして今回も旅行代を出すと。

素ちゃん、あんた凄いよ・・・・・・

 兎に角素が絡むと、一ノ瀬は変わる。
 一年見て来たが・・・・・

「どこでも好きな所を言え」

「あの・・・・・それって・・・・・?」

「お前は本当に頭が悪いな」

 頭が悪いと言われムッとする。
 日本最高峰の国立大学に通っていたのに。
 学部は違うが、一ノ瀬だって同じ大学に通っていた。
 校内でだって、会っていたではないか。

 そんな誌音の考えが直ぐに分かったのか、「誰が偏差値の事を言った、頭の回転が悪い
 と言ったんだ」と。

成る程

 ポンと手を打つ。
 自分の成績の事でない事に納得。
 だが、自分が貶されている事には変わりない。
 ムッとし、一ノ瀬を睨む。

「金を出してやるから、好きな所へ旅行に行けと言ってるんだ。 休みを潰す事になって、
仕事を急がせるんだ、当然だろう。 この仕事が終わったら、一週間でも二週間でも好き
な所へ行ってこい」

 ポカンと口を開けて一ノ瀬を見る。
 言い方は凄く偉そう。
 「出してやる」って、人を馬鹿にしてるのかとも思うのだが。
 腹が立たなかったのは、ぶっきらぼうだが、言い方は悪いが、誌音達の休みを潰して悪
 かったと謝罪してくれているのだ。

・・・・・信じられない
雷雨?暴風雨?地震? ・・・・・・天変地異が起こる〜

 今まで一ノ瀬と付き合って来た中で、一度もなかった。
 もしかしたら、夢? 何時の間にか寝てしまっていたのだろうか。
 目の前にあった堀田の手に噛み付く。

「いで――――――っ! 何するんだ誌音!」

 耳元で聞こえる叫び声。

「・・・・・夢じゃない」

「なんで俺を噛むんだよ・・・・・」

 涙目の堀田。
 噛まれた場所は血が滲んでいた。

 噛み付いた感触、五月蠅い叫び声に現実だと悟る。
 ボソリと呟いた誌音に「失礼な奴だ」と眉間に皺を寄せる一ノ瀬。

「私からもお願いする」

 SWの社長にまでお願いされてしまっては断る事も出来ない。

「し、仕方ないよね」

「お前には頼んでない、堀田に頼んだんだ」

 一々ムカツク。
 ここにいると、いや、一ノ瀬の傍にいると何を言われるか分かったものではない。
 これ以上ムカツク事を言われない為にも、早くこの場を離れるに限る。

「行くよ、龍生」

 堀田を置いてサッサとその場を後にした。
 逃げたと言ったほうがいいかも。

「待ってくれよ誌音」

 追いかけて行く堀田の姿は情けなかった。
 
あいつも普段はいい男なんだが・・・・・
あれのどこがいいんだか

 誌音が絡むと何処までも情けない堀田だった。

 そしてクラウスを振り返る。
 
「俺も失礼する」

 言ってその場を後にしようとする。
 素がいないのだから、車に興味ない自分がいても意味がない。
 それに、素達が何処に行ったのかも気になる。
 近くのネットカフェに行って、素を探さなくては。

「待て洋人」

 振り返り見る。
 言いたい事は直ぐに分かった。
 灯の事だろう。

「まだこの会場に用があるのか?」

 聞くと「用はない」と言う。
 その言葉を聞いた秘書は「この後雑誌のインタビューと会食の予定がある」と言ったが
 全てキャンセル 、若しくは変更と言い、一端控え室へ。
 そこでクラウスのパソコンを借り、素の居場所を検索。
 素の持ち物には発信器を付けてあるのだ。
 携帯は勿論、靴、時計。
 どの持ち物が欠けても大丈夫なように。
 それを聞いたクラウスは呆れていたが。

「ここだな」

 場所は近く。
 今日この後行く予定だったフルーツ専門店にいた。
 他の二人も一緒に違いない。
 このまま、素を攫いに行ってもよかったが、それでは今までと何も変わらないだろう。
 やはり邪魔者は排除だ。
 今後の事を考えると・・・・・

「クラウスこれからの事だが・・・・・」
 
 密談に入った。

 
「う〜〜〜〜ん、やっぱり美味しい〜〜」

「本当だね」

 体調が悪かった筈の灯が、素と二人で目の前にある物を美味しそうに勢いよくたいらげ
 て行く。
 一緒にいる藤木はあきれ顔。

 灯の体調が悪かったのは、藤木の言ったとおり会場を出るまで。
 会場を出た途端真っ青だった顔に血の気が戻った。
 そして急に「お腹が空いた」と。
 素も朝から騒いでいた為、空腹だったのでそのまま藤木の車に乗って舞浜まで来た。
 駐車場に車を止め、二人は藤木の手を引き迷わず目的の店へ。
 千疋屋はフルーツ専門店ではあるが、ちゃんとした食事をする事も出来る。
 昼はお得なランチも。
 藤木はBランチを頼み、 素達はパスタランチを。
 ランチにはデザートもついていて結構なボリューム。
 なのに2人はそれとは別にデザートを注文。
 幸せ全開の顔でたいらげて行った。
 
 一息ついた所で素は灯に聞いてみた。
 何故昔のような気弱な兄になったのか、知りたかったのだ。
 聞いて見ると、頼りがいのあるカッコイイ兄になりたかったのだと。
 素の前だけで、本当は全く変わっていないのだと正直に話した。
 藤木も、灯の頑張りは凄かったと、一生懸命フォローしていた。
 
 それを聞いた素は驚き、同時に申しわけなく思った。
 大好きな兄に、今まで無理をさせて来たのだから。

「ごめんね、兄ちゃん」

「素にせいじゃないよ、僕がもっとしっかり出来た兄じゃなかったから・・・・」

「兄ちゃん!」

「素!」

 店に中、二人は周りなど気にすることもなく抱き合った。
 見た目はとてもいいのだが、なんだか異様な雰囲気だった。
 その後は場所を灯に部屋に移した。
 運転手は藤木、素と灯は後ろの席で久しぶりに兄弟水入らず。
 イチャイチャとしていた。
 
 これを一ノ瀬が見ていたら切れていたに違いない。
 ピッタリとくっつき、お互いの腰に腕を回し、素は灯に肩へ、灯は素に頭に頬を寄せて
 いるのだから。
 恋人同士でも、ここまでするか?という位の密着ぶりなのだ。

 車から降りる時も手を繋いだまま。
 部屋へ行くまでは、腕を組んで。
 部屋に入った後は、灯は藤木にお茶の用意をさせる。
 
全くこの兄弟は・・・・・

 素のお気に入りの紅茶を淹れ戻ってみると、相変わらず二人は仲良くっついたままく
 ソファーに座っていた。

 お気に入りの紅茶の香り。
 大好きな兄。
 そして久しぶりに会えたもう一人の兄の存在。
 素は大満足。

「トシ兄ちゃん、ここ、ここ」

 言って素は灯の座っている場所とは反対、自分の空いている隣りの場所を手で叩く。
 藤木は素に言われるまま、その場所に腰を下ろす。
 素は灯、藤木に挟まれ更に満足。
 ニコニコしながら紅茶を飲む。

「う〜ん、俊之兄ちゃんの入れてくれるお茶はやっぱり美味しい〜」

「本当だね」

 灯も満足そうに頷く。
 
「そんなに煽てても、何もやらないぞ」

「本当の事だもん!ね〜兄ちゃん」

「うん、そうだね。 美味しいよ藤木」

 そう言ってニッコリと微笑む。
 やはり、素の前にいる時は大人な灯だった。
 全部素には話してしまっているのにも拘わらず、灯は穏やかで優しい兄になっている。
 
習慣とは恐ろしい・・・・

 などと思ってしまう藤木だ。
 
「ところで素、いいのか途中で帰って来て」

「え、うん。 いいのいいの。 だって兄ちゃん具合悪かったんだし。それに、モーターシ
ョーは明日から10日間もあるんだから。 その間にもう一度兄ちゃんと行けばいいんだ
から。 ね、兄ちゃん」

「そうだね。 でも・・・今日はごめんね素、具合悪くなっちゃって」

 折角モーターショーに来たのに全部見て回る事が出来なかった事は残念だが、灯に
 も言った通り体調の悪い灯を放って見学する事など絶対出来ない。
 まだ10日間もあるのだし。

 でも、本当に具合が良くなって良かったとホッとする。
 しかし、藤木がなにやらおかしな事を言っていた。
 SWの社長から離れれば治ると。

 クラウスは兄灯にとっては特別な存在。
 それは、素が兄灯の影響で車好きになった時から知っていた。
 熱く語る灯に素も熱くなった。
 クラウスの事が、雑誌やテレビで取り上げられる度もそれはそれは自分の事以上に
 熱く。
 そんな憧れの人物を目の前に灯は具合が悪くなるなんて。

一体どうして?

 疑問に思い口にした。
 クラウスの事を急に聞かれ灯の顔は真っ赤に。
 余りの赤さに驚いてしまった。
 だが、隣りにいた藤木には分かってしまう。
 憧れでなく、恋をしてしまっている事に。
 灯自身は気付いていないようだが。
 真っ赤になって口ごもる灯の代わりに藤木が言う。

「灯はね、大好きなクラウス氏に会えて緊張しすぎてしまったんだよ。 だって目の前に
居て話しかけてもらって、触る事が出来たんだから。 頭の中がオーバーヒートだったん
だよ」

「いやー!」

 大好きと言われ恥ずかしさの余り両手で顔を隠し俯く灯。
 耳も顔も見える部分は全て真っ赤。
 本当に好きなんだなと素は思った。

「そうだよね、兄ちゃん昔っから凄く贔屓してたし、凄く熱かったもんね〜」

「ひ、贔屓なんてしてないよ」

 灯は真っ赤なままで、一生懸命弁解する。
 しかし、すればするだけ墓穴を掘っていった。
 最後には「彼は僕の憧れで理想の存在なの」と告白してしまっていた。
 確かに素から見ても、クラウスは憧れてしまう。
 容姿端麗、頭脳明晰。
 しかもローゼンバーグ一族。


凄いよな・・・・・

「でも、洋人の友人なんだよな・・・・・」

 思わずボソリと呟く。
 途端灯の表情が一転。
 眉間に皺を寄せ、本当に嫌そうな顔に。
 その理由も藤木には直ぐに分かった。
 
・・・・・・・・・・・本当に嫌いなんだな

「素、その名前は口にしないでくれる・・・・・。 凄く腹が立つから」

に、兄ちゃんそこまで嫌わなくても・・・・・

 灯にとっては、最大の敵かもしれないが、素にとっては恋人。
 あの性格の悪ささえなければ、最高の恋人なのだろうが。
 折角、大好きな兄達と一緒にいるのだから楽しく過ごしたい。
 このまま、一ノ瀬の事を話せば話すだけ灯の機嫌が悪くなる事は目に見えている。
 
・・・・・・話題をかえよ

「でもクラウスさんて本当に格好良かったよね。 それに兄ちゃんに凄く優しくって。 俺
の時も優しいなって思ったけどなんだか兄ちゃんの時は特に優しかった気がするよ。 も
しかして一目惚れなんかされてたりして〜」

「な、何言ってるの。 そんな事ある訳ないでしょ。 それに僕達男同士だし・・・・・・」

 何を今更言っているのか。
 大事な弟素はその男と付き合っているではないか。
 それに、藤木に至っても恋人は男。

「灯、それは俺への挑戦か?」

 藤木に言われ「あっ」と気付く。
 そんな事ないと必死で弁解。
 本当は気にしていないのだが、意地悪く言ってみただけだ。
 オロオロする灯を余所に、藤木は疑問を口にした。
 SWの社長と一介の医者の関係が気になったのだ。

 素も今日、それも会場で聞いたばかり。
 詳しいところまでは知らない。
 だから一ノ瀬が話した事をそのまま話しただけだ。

「ドイツにホームステイね。 しかも毎年。 でもってパーティー? どこの金持ちだか」

「俺も洋人は謎かも。 分かってるのは、実家が一ノ瀬病院で将来はそこの院長になる
って事と、父方の親戚に奥寺製薬の経営者がいて、母方には警察官僚だの代議士だの
がいるって。 自分でも株持ってるし、幾つか不動産持ってるし。 それだけで働かなくて
十分生活出来るって言ってたし・・・・・・」

 3人が無言になる。

あの顔で、医者で、金持ちで、神様って不公平だ

 3人の顔がしかめっ面になって行く。
 不愉快、雰囲気まで悪くなっていく。
 このままではいけないと素は話題を変える。

「あ〜〜でも、洋人と友達だって言ってたから、また会えるね。 良かったね兄ちゃん」

「べ、別に会いたいなんて・・・・思ってないし・・・」

「またまた〜。 トシ兄ちゃんも言ってたじゃん、兄ちゃんクラウスさんの事好きなんでしょ。
会いたいでしょ」

 会いたい。
 でもあの不愉快な男にも会ってしまうかもしれない。
 それでももう一度会ってみたい。
 今度は貧血なんか起こさないから。
 でも、恥ずかしい。
 どうしたらいいのか葛藤していた。

 真っ赤な灯。
 クラウスの事を思い出しているに違いない。
 甘いマスクに、声。
 紳士的な態度。
 どこをどうとっても、灯のツボ。
 恋する乙女にしか見えない。
 これは応援するしかないのだろうか、悩む素だった。

 考えても仕方ない。
 灯がクラウスに恋をしたのなら、やはり弟としてはなんとか成就させてやりたい。
 クラウスの灯を見る目もなんだか熱っぽかった。
 これはもしかしたら両思いなのでは。

 素にとっては大切な兄。
 恋人はとっても癖のある一ノ瀬だが、それでも幸せなのだ。
 灯にも幸せになって貰いたい。
 それにクラウスは、一ノ瀬とは違って性格は良さそうだ。
 家へ帰ってから、一ノ瀬にそれとなく聞いてみようと思った。
 今後の事も考え、灯にはさらに詳しく聞いておかねば。
 
「ねえ、今日泊まってもいい?」

「えっ、いいの? 大丈夫なの? あの五月蠅い男が乗り込んでくるんじゃない? そろそ
ろ携帯かかってくるんじゃない」

 眉間に皺を寄せ携帯を見る。
 そろそろ鳴り始めそうな予感。

「うっ!」

 そうだ。
 毎回素がここに来るたび、いや、ここだけではないのだが、一ノ瀬が現れて素を家へと
 連れ帰るのだ。
 黙っていても、確実に素のいる場所を探し当てるのだ。
 一体どんな方法を使っているのやら。
 聞いたところで教えてくれた事はない。

発信器なんか付けられてたりして〜

 冗談で思っているが、実はそうだとは気付きもしないだろう。
 携帯がGPS機能付きの物ならそう思ったに違いないだろうが、素の持っている携帯には
 そんな機能はついていない。
 それに、今使っている携帯は一ノ瀬と付き合う以前に購入した物だ。
 絶対にないと確信していた。
 だが、携帯にはついてなくても、時計やベルト、靴にはついていたりする。
 普通は思いつきもしないだろう。
 いくら、一ノ瀬と付き合い始めてから購入したとしても、そこについているなどとは。
 ただ、勘が鋭いくらいにしか思っていない筈。

「だ、大丈夫じゃない?」

 言ってはみたものの心配になる。
 一ノ瀬はかなり嫉妬深い。
 素の兄である灯に対してでさえ、敵意を向けてくる。
 付き合い初めて、初めて兄に家に泊まると言った時には家から出して貰えなかったし、
 灯の家にいる時電話で泊まる事を伝えたら、直ぐさま迎えに来てそ のまま連れ帰られ
 てしまった。
 そしてお仕置きをされ仕事を休む嵌めに。
 腹が立って、今度は居場所を告げず外泊電話を入れると、探しだし連れ帰られまたお
 仕置き。
 今度こそ!と再度外泊しようとしたがまた見つかり。
 何故、どうして。
 聞いても一ノ瀬は教えてくれる筈もなく。
 仕方なく諦めたのだ。
 外泊だけでなく、友達からの電話もチェックするは、飲み会は駄目だと言うは、黙って飲
 み会に行けばやはり見つかってしまうは。

 そんな事を思い出しドキドキしていると着信音が。


 一ノ瀬と分かるように、着信音は変えてある。
 二人がソファーの上で飛び跳ねる。

来たっ!

 携帯を見詰める二人。

「素、鳴ってるぞ」

 藤木に急かされ出る。
 
「も、もしもし?」

『これから迎えに行く』

「・・・・・・えっと・・・・泊まっちゃ駄目?」

 なるべく可愛らしく聞いて見る。
 
駄目か?
やっぱり駄目なのか?

 僅かな沈黙の後、信じられない一言が。

『・・・・・今回だけだぞ』

「うん今回だけ・・・・・って!?」

『灯の具合はどうだ? もういいのか?』

「うん・・・・」

『そうか、7時に迎えに行く。 ちゃんと起きて待ってろよ』

「・・・・・うん・・・」

 素が返事をすると一ノ瀬のほうから切った。
 呆然と切れた携帯を見詰める素。
 一ノ瀬に一体何があったのか。
 今の今まで外泊など一度も許した事がないのに。
 何故今回に限って外泊を許してくれたのか。
 灯が具合が悪いから?
 あり得ない。
 一ノ瀬が今まで灯の事を貶し苛める事はあっても心配などした事はない。
 
恐い
恐すぎる〜〜〜〜!

 天変地異の前触れか?
 蒼白な顔にまま携帯を見詰める素。

「素? どうしたの。 あいつ何だって?」

 心配になって訪ねる灯。
 今まで一ノ瀬に勝てた事などないが、可愛く愛する弟に為、返り討ちに合っても一矢報
 いてやると心に誓う。

「・・・・・泊まって、いいって・・・・」

 携帯を見ながらボソリと呟く。

「・・・・・・え?」

 聞き間違いか。

「兄ちゃんとこ泊まっていいって。 で、兄ちゃんは大丈夫かって心配してた・・・・・・」

 泊まっていいと。
 誰が誰を心配したと。

「え――――――――!?」

 叫ぶ灯。
 
「やだ、嘘、信じられない、っていうか恐い! あの男がそんな事言う筈ないし」

 灯はパニックに陥っていた。
 その声を聞いて素も一緒にパニックに陥る。
 携帯に登録してある一ノ瀬に連絡を入れる。
 
「もしもし、洋人? さっき洋人の携帯からいたずら電話があってね、俺に外泊していいよ
って、んでもって灯兄ちゃんの体調気遣ってくれるんだよ・・・・・え、洋人が言ったの? 嘘
でしょ? ・・・・・だって洋人が兄ちゃんの心配する筈ないじゃん! えっ・・・・・・やだ―
――――――!」

 更にパニックに陥った素だった。
 最後に叫んだのは『覚悟しとけよ』と低い声で言われたから。
 確実に3日は休む嵌めになりそうだ。

 そんな素を見て藤木は同情。
 と同時にある思いが頭を過ぎる。
 あの独占欲の強い一ノ瀬がたった一泊とはいえ、外泊を許すのだ。
 何かあるに違いない。
 それが何かは分からないが、灯に関係あるかも知れない。
 素の実の兄である灯でさえ素が懐くのが許せないらしいから。
 何にせよ危害は加えられないだろう。
 素が本当に大切にしているものには手を出さないだろう。
 素を本気で怒らせる事などは絶対にしない筈。

しかし、一体何を考えているのか・・・・

 まあいいかと思いながら席を立ち、二人の為に夕食の用意を始める。
 灯の家の冷蔵庫には豊富な食材がある。
 二人の好きな物を作ってやろう。
 素には明日の為に体力がつく物を。
 灯には今日憧れのクラウスに会えた事を祝ってやる為に。
 そして3人が久しぶりに会えたお祝いに。

 それぞれ好きな物が夕食に並んでご機嫌になった。
 話しも弾み楽しい食事。
 寝る時も3人仲良く川の字になって。
 昔話に花を咲かせ。
 楽しい一夜となった。

 翌日時間通り一ノ瀬が素を迎えに来た。
 見たこともない爽やかな笑顔を振りまいて。
 余りにも爽やかすぎて3人が思わず鳥肌をたててしまった。
 暴れる素を簡単に抑えながら灯に満面の笑みで一言。
 
「灯さん、今度ゆっくり食事にでも行きましょう」

 聞いた瞬間貧血を起こし倒れてしまった。
 
「兄ちゃん! 大丈夫、兄ちゃん!?」

「あれの事は、任せておけばいい。 それより自分の心配をした方がいいんじゃないか?」

 灯に見せた笑みとは違う、悪魔の様な笑み。
 
「嫌だ〜〜〜〜。 助けてトシ兄ちゃ〜〜〜ん!」

 叫ぶ素。
 だが藤木は「頑張れよ」と言い、倒れた灯を抱き上げサッサと部屋の中へと戻って行っ
 た。

「薄情者〜〜〜!」

 と叫ぶ素を担いで運ぶ一ノ瀬。
 五月蠅くて叶わないと濃厚なキスを。
 あっという間に大人しくなった素。
 家に帰ってからと思ったが、素の放つ艶に負け近くのホテルに向かう一ノ瀬。
 一日触れなかっただけで素不足なのだ。
 当直のある日は素不足でどうにかなってしまいそうになる。
 自分でもおかしいとは思うのだが、どうにもならないのだ。
 一年経った今でもその気持ちは変わらない。
 この先も変わる事はないだろう。
 
 着いたホテルで思う存分素を堪能した。
 何度抱いても抱き足りないくらい。

「も・・・・やだ・・・・・・っ・・・・・・」

 喘ぐ姿も、涙を流す姿も全部が一ノ瀬を刺激するのだ。
 素の職場には連絡は入れてある。
 代わりの人も手配済み。
 邪魔な灯の事も何とかなりそうだ。

満足するまで付き合ってもらうぞ

「んぁ・・・・・いい・・・・・・・」

 素を思い切り突き上げる。

「ああああぁ・・・・・・」


 素の読んだとおり3日休む嵌めになった。
 最初の二日はホテルから出る事はなかった。
 三日目一ノ瀬が仕事だからと出掛けて行ったが、素は動く事が出来なかったのだ。
 
 4日目職場に行くと「相変わらず君達熱いね」と横田医師に言われてしまった。
 これが息子の聡なら言い返せたものの、父の横田医師では言い返せる筈もなく。
 
いつか覚えておけ〜
 
 と妥当一ノ瀬を誓うが、この一年それが叶う事はなかった素だった。
 
 そして最終日になってしまったが、もう一度灯とモーターショーへ。
 最終日だったせいか思ったより空いていて、二人は大好きな車を堪能した。
 いつもの如く二人仲良く手を繋ぎ。
 
 大満足していた二人の前に、いる筈のないSW社長と一ノ瀬が現れまたパニックし、二
 人で手を握り合って脱兎の如く逃げたのはいうまでもなく。
 しかしあっさりと捕まってしまったが。

 今度は一ノ瀬は容赦しなかった。

 しっかりと繋がれていた手を憎々しげに引きはがし、さっさと会場から連れ出してしまっ
 た。

「素―――――!」

「兄ちゃ――――ん!」

 哀れを誘う叫び声が会場に響き渡った。
 素がいなくなった事でオロオロしてしまう灯。
 しかも隣にはクラウスが。
 またもやパニック。
 そんな灯を余所に、クラウスに強引に連れ出され食事に連れて行かれていった。
 
 当然素はその事は知らない。
 先に一ノ瀬に連れ帰られたから。
 それから3日は灯の事を思い出せる暇もないくらい一ノ瀬にお仕置きをされたのだ。
 漸く解放され、灯に連絡を入れた。
 が、ちょっといつもと様子が違っていたのが気にかかったが・・・・

 今回も一ノ瀬の嫉妬はすごかった。





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