恋は盲目

(6)







 お目当ての馬を見る事の出来た稔はとても機嫌がいい。
 車に乗った後も、笑顔全開のまま。
 恭夜を相手に、一生懸命話しをしていた。

 そのお陰で、敬も恭夜もとても機嫌が良かった。
 車は山の中を抜け、メロンで有名な夕張市を抜け、日高方面へ。
 途中、道の駅で休憩を取りながら、富良野へと向かった。
 富良野に着く前に日も暮れてしまっていた。 
 牧場ではしゃぎすぎた稔は疲れ寝ている。
 恭夜は稔の身体をソッと横にし、頭を自分の膝の上に置き、寝顔を見て
 いた。
 敬は静かになった後ろを振り返り、二人の姿を見て苦笑する。
 
「なんだよ・・・・・・」

 稔が寝たのを良いことに、恭夜の口調と雰囲気ががガラりと変わる。

「お前がそんなに、稔に入れ込むとは思わなかったよ」

「・・・いいだろ、別に。 俺はこいつの事が気に入ってるんだ。 余計な口は
挟むな。 吹き込むな」

「それは構わないが、稔を傷つけたら許さないからね。 俺の一番のお気
に入りなんだから」

 敬の雰囲気も冷たい物へと変わる。
 稔が起きている時には絶対、見る事も感じることはない、鋭い物へ。

「そんな事する訳ないだろ。 ようやく見つけたんだ・・。 絶対に逃がさねえ
よ」

 その言葉に、敬が目を見張る。
 恭夜の意味深な言葉。
 だいぶ前、敬と知り合う前から知っているような口調。
 探していたというのは・・・・・・・

「どういう事だ?」
 
「別にどうだっていいだろ。 とにかく俺はこいつを手に入れる」

「稔はノンケだぞ。 対人恐怖症もある」

「そのぐらい知ってる。 まあ俺のせいかもな・・・」

 ニヤリと物騒な顔で笑う。
 敬は眉をしかめ、恭夜を見る。
 先を話せと促す。

「去年の夏だ。 こいつを見つけて、ホテルに連れ込んで犯した。 その後
逃げられて、ずっと探してた」

「お前・・・・・・・・」

 敬の雰囲気が怒気を含んだものへと変わる。
 横の運転手が怯え、車を止めてしまう程の凶悪な物と。
 そんな敬などお構いなく、恭夜は続けていく。

「今度見つけても、こいつに逃げられないよう髪も金髪から黒に変えて、だ
てメガネまで掛けて、優等生のふりをしていたんだ。 お陰でこいつは全く
俺に気が付いてない。 しかも敬の弟だからって、懐いてる」

 クスクスと笑う。
 そして敬を見詰め断言した。

「今回は逃げられない様に、別人になって、こいつを手に入れる。 ノンケ
でも優しくしてやれば、嫌悪もないだろう。 ゆっくり時間をかけて、心から
落とす。 時間はたっぷりあるんだ。 ばれたとしても、一端受け入れたら
絶対こいつは、何があっても許す筈だからな」

「そこまで手をかけるという事は、本気なんだな・・・・・」

「ああ、本気も本気。 この俺がこんなマジになるなんて思ってもなかった
ぜ」

 恭夜に「本気」と言う言葉を聞き、敬の雰囲気が和らぐ。
 しかし、何処で稔の事を見つけたのか、是非とも聞きたい。

「稔の何処が、お前をそんなに引きつけたんだ」

「目だ」

 力強く言い切った恭夜に、敬も『成る程』と納得した。




 敬も、恭夜と同じ様に稔の目に惹かれたのだ。
 去年、一年の時は別のクラスだったが、体育の授業が合同だった為に
 稔の事は、知っていた。
 色黒でとても健康的。
 明るく、元気が良く何時も友達に囲まれ、構われていた。
 切っ掛けは、やはり体育の時間。
 クラス対抗のバレーボールの試合を行なっていた時の事。
 敬は面倒だった為、手を抜きメンバーから外れ、コートの外から試合を
 眺めていた。
 その目の前に、稔が立ち線審をしていた。
 後一点取れば、どちらのクラスが勝つ事に。

 敬のクラスのボールがギリギリ線を割った時、主審は「イン」と言った。
 主審の位置からからは「イン」に見えたのかもしれないが実際には「ア
 ウト」 そして稔も当然「アウト」と言ったのだ。
 当然敬のクラスは、稔に食って掛かった。
 しかし、アウトはアウト。
 敬も見ていたが、面倒くさかった為に何も言わずに見ていた。
 稔は「アウト」だと言い切り、相手にしない。
 そして後ろにいた敬を振り返り「あんた見てたよな。 今のは絶対にアウト
 だったよな」と言って来た。
 その言葉に全員が驚き、稔を見る。
 クラス、いや、全校生徒と言っても過言ではないが、誰もが敬の事を特
 別な存在として見ていた。
 しかし、敬は人が近づくのをとても嫌った。
 そして、態度と視線で誰も近づけなかった。
 偶に、それが分からず近づく者も居たが、丁重な言葉と態度で、二度と
 近づかない様にした。
 それを知ってからは、誰も敬に近づかなくなり、遠巻きで見ていたのだ。
 
 内心、舌を打ち稔を見る。
 真剣な眼差しで、正面から敬を見詰めていた。
 その真っ直ぐな視線にたじろいでしまった。
 そんな自分に驚く敬。
 何時も自分を見る目は、何処か媚び、または怯え。
 兎に角神経を逆撫でする物ばかり。
 それが稔には全く感じられなかった。

「そうだね。 確かに入ってなかったよ」

 思わずそんな事を言ってしまった。
 告げた瞬間、稔の目がキラキラと輝き、笑顔に。
 とても綺麗で透明な瞳をして眩しかった。
 敬の心が穏やかな気分になったのだ。

 その場にいた全員は、そんな敬の態度にかなり驚いていたが、敬がそう
 言うのだからと、その場は丸く収まった。
 それから、敬は稔の事を気にする様になった。
 特に話しをする事はなかったが、時々目が合い稔が笑いかける。
 それに敬が癒されるという日々だった。

 それが変わったのが、夏休みが終わり、2学期の始業式。

 何時も明るく、正面を向いていた顔が俯けられたままで、全く上げられく
 なっていた。
 そして、1学期とは比べようもなく痩せ、窶れていた。
 友人達は驚き、心配し、色々と聞いたりしていたが、俯き、口を閉ざした
 ままだった。
 敬も、稔の姿にはかなり驚いた。
 全く別人な姿に。

 始めは、多くの友人達が気を遣って話しかけ、心配し何とか頑張ってい
 た様だが、一向に話さない、笑わない稔に、一人、また一人と離れてい
 った。
 そして、数人だけになってしまった。
 髪を伸ばし、表情を隠し、外に出なくなっただろうが為に、色も白くなって
 いた。

 年が変わっても、稔の表情は変わらなかった。
 ただ、新年度になり、敬と同じクラスになってから、段々と表情が変わる
 様になって来た。
 先の友人達は、なるべくそっとし、根気よく見守っていたが、敬は同じク
 ラスになった事で、何時も稔の傍に居、話しかけた。
 自分の癒しの為に。
 初め口も効かず視線を合わせる事が無く、敬の事を全身で拒否していた
 稔。
 
 誰も近づけなかった敬が、何時も稔の傍に居た為に、それを良く思わな
 い輩が出て来、稔に危害を加えようとした事があった。
 しかし、どうにかして自分に近づきたいと思っていた内の一人が、その事
 を敬に知らせた為に、、稔には何事も無かった。
 
 敬の事で、危険な目に合いそうだったのだが、敬は稔を守り、二度と同じ
 事が無い様に完全にしてくれた。
 その事で、稔は敬に心を開き、少しずつだが笑い、話しをする様になった
 のだが。

 まさか、自分の弟のせいで、稔が変わってしまったとは・・・・・
 頭が痛くなった敬であった。





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