孤独な華

(1)





バン!
ガンッ!

 破壊されるのでは?と思われる程の激しいドアの開閉音。
 パソコンのキーボードを叩いていた手が一瞬止まる。
 
「と〜もちゃん」

 と同時に脳天気な声を出しながら、甘い顔立ちの男が入って来る。
 普段はとても静かで、誰もが恐れる秘書室。
 だがこの男、澤部好哉が入って来ただけで、途端賑やかなもの
 に。
 何度注意しても、その登場の仕方は変わらない。

 ドアの開閉もそうだが、「友ちゃん」呼ばわりするのも止めろと何度
 言っても止める気配がない。

誰が「友ちゃん」だ!

 表には出さないが、内心怒り狂っていた。

 『友ちゃん』と呼ばれた男、漆原友之はこれ以上ない程冷たい眼
 差しで男を見る。

「いやん、友ちゃんそんな冷たい目で見ちゃ」

 190p近くもある大男がシナをつくって言う言葉ではない。
 この場に他の者が居ようものなら鳥肌を立て悲鳴を上げているだ
 ろう。

全く、この男はどこまでふざけているんだ!

 キーボードを叩く指につい力が入る。
 そうやって幾つ壊した事か・・・・・

 甘い顔立ち。
 誰もがいい男だと言う。
 確かに顔はいいかもしれないが、その言動はいただけない。

 ふざけた言葉に態度。
 だが清風会の事実上トップにいる神崎和磨の右腕。
 真剣になった時の行動は素早く、顔つき態度がガラリと変わり死神
 と言われる程の人物なのだ。
 それなのに普段の澤部ときたら・・・・・
 
「・・・・・五月蠅い」

「もう、友ちゃんそんな怖い顔しないでよ、綺麗なお顔が台無しよ」

 なぜお姉言葉なのか。
 誰のせいだと思っているのだと言ってやりたいが、そこはサラッと
 流す事に。
 そうでもしないと、話が先に進まないのだ。
 
「澤部、頼んでいた物はどうしました」

「無視かよ・・・・」

「無能と呼ばれたいんですか?」

「・・・・・・・」

 綺麗な顔に似合わず、相変わらず毒舌な漆原にちょっとブルーな
 気分になってしまう。
 どんなに頑張っても、表面上そんな事は全く出さないが、漆原は優
 しい言葉などは一度もかけてこない。
 「出来て当然」と思っているのだから。
 しかし澤部も負けていない。

「無能だなんて酷〜い。 普通なら一週間はかかるだろうこの調査
をたった二日で完璧に終わらせた僕に対して。 『お疲れ様、大変だ
ったでしょ。 今日はゆっくり休んでねv』とか、『食事でも一緒にどう
?』の一言くらいあったっていいと思うんだけど」

「・・・・・・」

 キーボードを打つ手が遂に止まった。

 何が『僕』だ。
 大男が可愛いコぶっても気持ち悪いだけだろう。
 『何がゆっくり休んでねv』
 自分がゆっくり休みたいくらいだ。
 『一緒に食事でも?』
 なぜこんな鬱陶しい男と食事などしなくてはならないのだ。
 食事をするなら見た目麗しい方がいいに決まっているだろう。
 なぜこんなふざけた男がこの場にいるのか。
 出来る事なら永遠に自分の目の前から消えて欲しいくらい。

和磨さん、抹殺してもいいですか・・・

 何度思った事か。
 だが、この男清風会にはなくてはならない存在。
 この男が気の荒い男達を纏めているのだ。
 漆原も腕には自信はあるが、和磨とこの澤部にだけはどうしても
 敵わない。
 気の荒い男達を惹き付けているのだ。
 自分も周りから慕われているのは分かっている。
 だが澤部には敵わない。
 それが悔しいと思う事もあったが・・・・・

 冷たい視線。
 全く表情の変わらない漆原に澤部は諦めた。
 内心漆原は怒り狂っていたのだが。

女王様はご機嫌斜めですか・・・・

「まあ冗談はここまでで。 ほらこれだ」

 言って手に持っていた封筒を漆原に渡す。

「今時封筒。 パソコンという便利で早い手段があるのに」

 ふう、とため息を吐く漆原。

「いいだろ別に。 手渡しの方がおまえの顔見られるしな」

 ふて腐れる澤部は無視。
 手渡された封筒から書類を出す。

 澤部に調べさせたのはある人物の事。

 『屋代雫』についてだ。





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