10万Hits企画
彼氏自慢?

(2)





 水をゆっくりと飲み干す綾瀬。
 
「・・・・・・・・ふうっ」

 息を吐き目を開ける。
 先程の動揺は見られなかった。

「ふっ・・・・そんな事より珊瑚。 お前竜也の事年上と思っていたんだって? 同い年って聞い
て、倒れたそうじゃじゃないか」

「!」

何故それを!

 冷や汗が体全体に吹き出る。
 今まで優位に立っていた珊瑚。
 一気に形勢逆転。
 そして、ターゲットは切り替わった。



「まあ、スーツ姿の竜也なら、誰が見ても高校生とは気付く筈ないが、去年はまだ坊主だった筈
だよな。 スーツ姿に坊主なんて誰が見てもおかしいだろ。 それを気付かないとは、さすが珊
瑚」

 出会いが去年で、その時の竜也の姿まで知っているとは・・・・・
 一体何処で知ったのか?
 いや、綾瀬はそれを誰に聞いたのか?
 少し意識が遠くなる。

「だ、誰に・・・・・」

 今まで自分の事をからかっていた珊瑚の顔色が変わって、ちょっと スッキリ。
 あまり苛めても可哀想だと思い、適当な所で止めておく。
 そして出所をアッサリと白状。

「竜也からだ」

 珊瑚は目の前の机に突っ伏した。

「珊瑚!?」

 隣に座っていた有樹が慌て、珊瑚の肩を揺する。

「大丈夫、珊瑚。 しっかり!」

 想像以上の打撃を与えてしまったらしい。

「・・・・・・・・・」

 少しだけ反省の綾瀬だった。


 そんな時、このカフェのオーナーで、珊瑚の叔父でもある雄大が若菜達の注文した品を持って
 来た。
 従業員達には、珊瑚が自分の甥である事を知らせている。
 そして、珊瑚達が来たら伝えるようにとも。
 この日も5階のオフィスで仕事をしている時、珊瑚達が来たと連絡を受け、いそいそと下りて
 来たのだ。

 甥の珊瑚を筆頭に美形の集団は、雄大にとって最大のお気に入り。
 中でも若菜がNo1。
 始め見た時には余りのダサさに、邪険にしていた。
 が、実はとびきりの美形と判明した瞬間手のひらを返したような扱いに。
 変わり身の早さに皆が呆れた程。

「ようこそ若菜君、今日も素敵だね」

「「・・・・・・・・」」

 ダサイ姿のままにも拘わらず、よくそんな事が言えるものだと関心してしまう綾瀬と有樹。
 
「雄大さんは今日もカッコイイですね」

「そうか?」

 デレデレな雄大。
 後ろに着いている秘書に千葉はこめかみに青筋が。

「ところで、珊瑚はどうしたんだ?」

「綾瀬に、竜也君との出会いを語られて、恥ずかしさのあまり倒れちゃったんです」

「誰がだ!」

 珊瑚復活。

「分かるよ〜、人から自分達の事を話されるのって凄く照れるもんね〜」
 
 ウンウンと一人納得する若菜。
 怒りに握りしめた拳が震える。

いつか殺す・・・・・・

「で、折角復活したんだから教えて?」

聞くのか!?

 それは雄大にしてみても知りたかった事。
 珊瑚の相手は剣財閥次男なのだ。

「俺も聞きたい」

 視線で人を殺せるなら、真っ先に雄大を抹殺するだろう。

「僕も聞きたい」

「そうだな、俺も悠二との事を話したんだ、当然珊瑚にも話して貰わ
ないと不公平だろう」

こいつら〜〜〜〜〜

 四面楚歌だ。
 覚悟を決めた珊瑚だった。

「初めて会ったのは去年の夏だ。 出先で倒れた俺を竜也が介抱してくれたんだ。 以上」

「え〜〜〜〜、それで終わり〜〜〜。 そんなんじゃ全然ダメだよ〜」

 若菜からダメ出しをくらう。
 周りからもブーイング。
 黙ったままの珊瑚。

「だって、今綾瀬が話してくれた事が入ってないよ。 竜也さんが坊主だったとか、スーツ姿
だったとか」

 食い下がってくる若菜。
 同意する綾瀬達。

「だから、俺が倒れた時竜也がスーツ姿で、坊主で違和感はあったけど、落ち着いてたから同
い年とは思わなかったんだよ」

「でも、竜也君TVや雑誌で取り上げられてたよ『今話題の高校球児』って」

「俺は野球は見ない!」

 そんなに威張っていう事もないだろう。
 
 竜也が当時通っていた「鳳学園」は都内でも有名な進学校。
 スポーツもそこそこだが甲子園は初出場。
 精悍な顔立ち、鍛えられた肉体、爽やかな笑顔。
 ファンクラブまであったらしい。
 そして、何と言っても『剣財閥御曹司』という話題性。
 マスコミが飛びついた。

 そして「鳳学園」は初出場にして初優勝。
 竜也は一躍時の人となったのだから。

 いくら野球は見ないからと言ってもTVも雑誌も見てる筈。
 余りの関心のなさは見事としか言いようがない。

「・・・・・・それで」

 綾瀬が先を促す。

「・・・・・・・・・」

 頑固な珊瑚。

「まあ、いい」

 綾瀬の終わりを匂わせるような言葉に一安心。
 新しく注文したアイスティーに口を付ける。

「珊瑚が熱中症で倒れたのを竜也が看病して、家に誰もいないと聞いた竜也がこれ幸いと荷
物を運び込んで同棲となったんだろ。 聞くところによると一目惚れだそうだ」

 綾瀬が珊瑚に変わり簡潔に話す。

「ブゥ――――――――――――!」

 口に含んだアイスティーを思い切り吹き出した。

「やだ〜〜〜〜」
「汚〜〜〜い」
「何やってんだ!」

 若菜、有樹、雄大から非難の声が。
 珊瑚の思考が停止した。
 珊瑚は停止したままの状態。

「お〜い、珊瑚〜」

 有樹が珊瑚の目の前に手を翳しても反応はない。
 何故綾瀬がそんな事を知っているのかという疑問を、若菜が代表して聞いてみる。

「別に無理矢理聞き出した訳じゃない。 この話は竜也に聞いたと言ったんだけど、実は兄さ
んからなんだ。 竜也は昔から兄さんの事を尊敬というか、憧れている」

ふんふん。

 全てに置いて完璧とも言える貴章を思い出し、若菜・有樹・雄大の三人が頷く。
 
「兄さんは若菜の事が心配で仕方ないから、まあ・・・色々と調べたりしてたりとかもするんだ
が・・・・・」

調べるって・・・・・・?

「で、珊瑚が若菜の友達だって知ってる。 その調査の中に、珊瑚に彼氏が出来たって報告が
あったらしくて、それで調べたら竜也だった。 若菜の友人で珊瑚の彼氏でもある竜也に会っ
た時に、兄さんが『若菜の友達とつき合ってるらしいな』って聞いたら、色々話たみたいで。 俺
は又聞き。 兄さんに『竜也が俺の友達の珊瑚とつき合ってるんだ』って言ったら『ああ、一緒
に住んでいるらしい。 竜也が一目惚れだと言ってたな』ってさ」

久我山貴章って・・・・・

 戸田若菜の安全の為ならなんでもするらしい。
 顔を合わせたのは、若菜がバイトしていた時の事。
 突然やって来て若菜を連れ去ってしまった。
 ほんの一瞬の出来事だが、あの冷酷そうな眼差し。
 近づく者全てを切り裂くような鋭い気配を思い出し、思わず背筋が寒くなる雄大と千葉。
 格が違いすぎる。
 そんな久我山貴章の恋人若菜に尊敬の念を抱く。

こんなに見かけはダサイのに・・・・・

 しかし、メガネを外せば全く違う神々しい美貌。
 それだけではない。
 語学力も堪能、頭の回転も良く政治、経済にも詳しい。
 ただ普段は非常に呆けているが。

「なんですか?」

 雄大と千葉から送られる複雑そうな視線に首を傾ける若菜。
 以前同じような仕草をした時には思わず鳥肌が立ってしまった雄大 だが、今はそれが可愛
 らしく感じてしまう。
 なんて現金な・・・・・

「・・・・・何でもないよ」

 ちょっと、納得いかない若菜だったが今は別の事が気になっていた。
 それを躊躇わず、全く考えもせず口にする。

「ところで雄大さん達は、いつからつき合ってるんですか?」

ゴン!

 思い切りテーブルに頭を打ち付ける雄大。
 後ろで千葉は驚いた顔。

「えっ! なになに!?」

 珊瑚復活。
 若菜の追求は止まらない。

「長いんですか?」

「何の事かな・・・・・・」

 呻くような声。
 顔を上げると額が赤くなっている。
 かなり強く打ち付けたらしい。
 そして表情は引きつっていた。

「えっ、だってつき合ってるんですよね? 千葉さんと」

「その根拠はなんだ! その自信はどこからくるんだ!」

 口から火を噴きそうな勢い。

「だって〜、雄大さん口では何だかんだ言っても甘えた口調だし、千葉さんはもキツイ事言って
ても仕方ないなって感じで、見る目が凄く優しくって、でも有樹にデレデレしてる雄大さんを見て
嫉妬してるから!」

「「!」」

 ハッキリと言い切った若菜。
 全く持って正解。
 雄大と千葉はつき合っているというか、今は一緒に住んでいたりする。

 若菜の言うとおり、普段はとてっも素直ではない雄大。
 だが、千葉には惚れている。
 見た目綺麗な子がいると直ぐ目がそちらに行ってしまい、千葉の怒りをよく買う。
 千葉も表では押さえてはいるが、やはり雄大が綺麗なものに目を向ける度嫉妬の炎が燃
 え上がる。
 見た目とは違い非常に嫉妬深く情熱的だったりする。
 素直でない所や、嫉妬深い彼氏を持つ所は珊瑚と同じ。
 血の繋がりは深かった。
 自分達に関係は全く分からない筈と思っていただけ、動揺も大きい。

 しかも、出会って一ヶ月。
 実際に会ったのは5回程。
 一番疎いと思っていた若菜に勘付かれ、言われてしまうとは・・・・・

 その観察力、洞察力には恐れ入る。
 その場に居た皆が尊敬の眼差し。

「・・・・・・そうなんだ・・・・だから叔父さん結婚しないんだ・・・・。 だからこの間見合いの話も
断ってたんだ・・・・・」

「雄大だ!」

 違うところに拘る雄大。
 その後ろで千葉の雰囲気が変わった。
 目が据わっている。

「どういう事だ・・・・・」

 後ろから響く声に雄大の肩がビクリと上がる。
 すっかり二人の関係がばれてしまった事で、千葉も隠すのを止めたらしい。

しまった!

 つい先日も見合いを断ったばかりの雄大。
 その見合いの事は千葉には教えていない。

 恐る恐る振り返る。

「げっ!」

 不機嫌と嫉妬を丸出しの千葉に青ざめる。

「詳しく聞かせて貰おうか」

 口調も変わっていた。
 嫌だとテーブルにしがみつく雄大を引きはがし連れ去ってしまった。

「さすが血が繋がってるだけあって行動が似てるな」

 しみじみと呟く綾瀬。

「どういう事だ!」

 食って掛かる珊瑚。

 若菜の制服のポケットに入っている携帯が震える。
 見ると貴章からだ。

「もしもし!」

『何処にいる』

「珊瑚の叔父さんのカフェ」

『5分後に迎えに行くから待っていなさい』

「はい!」

 満面の笑みの若菜。
 綾瀬達はまだ言い合っている。
 有樹は黙々と雄大からのサービスのケーキを食べていた。

 5分後

「若菜」

 掛けられた低い艶のある声にまだ言い合っていた二人の声が止む。
 若菜に掛かってきた電話に気付いてなかった二人は突然の貴章の登場に驚く。
 周りにいた客達も貴章の容姿に驚き見惚れていた。

「貴章さん!」

 椅子から立ち上がり急いで貴章の元へ。
 相変わらず周りの目など全く気にせず、貴章の胸に抱きついた。
 貴章も普通に抱き留めている。

だから、外では止めろよ・・・・・・

 若菜の腰を抱き綾瀬達の元へ。
 何度見ても見慣れる事のない迫力ある美貌。

「私達は帰るがどうする?」

「一緒に乗ってく?」

 二人に聞かれるか、三人は揃って首を振る。

「そうか。 行こう若菜」

「じゃあ、、また明日ね〜」

 手を振る若菜に振り返す。
 ベタベタな二人。
 姿が見えなくなった途端大きく息をする。

「何回見ても馴れない」

「迫力が違うよね」

「・・・・・・・・・・」

 残っていた飲み物を一成に飲み干す。

「・・・・・・帰るか」

「うん」

「そうだな」

 机の上を見ると伝票がなかった。
 聞くと先に貴章が払っていったとの事。
 店員の目はどこか夢見がち。

「凄いな・・・・」

「そうだね」

「ああ」

 会話になっていない三人だった。

 貴章に会えて嬉しくて仕方ない若菜。
 車の中で楽しそうに話す。

「今日ね、みんなで馴れ初めを話してたの。 でね、貴章さんが一番カッコイイねって話してた
の」

 綾瀬達三人が聞いたら「そうじゃないだろ!」と突っ込まれるのは間違いない。
 誰もが貴章の事をカッコイイというが、三人にとっては自分の彼氏が一番なのだから。

 一生懸命話す若菜に貴章は優しい微笑みを浮かべていた。





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