10万Hits企画
彼氏自慢?

(1)





 放課後、いつものカフェにて盛り上がる?4人の姿が。
 
 実際に盛り上がっているのは二人だけ。
 綾瀬と珊瑚は「何故こんな話しに・・・・」と冷や汗を流していた。



 事の起こりは若菜の携帯。
 待ち受け画面が貴章とのツーショット。
 それを見た有樹が「若菜達ってラブラブだよね。 やっぱり綾瀬の紹介なの」と聞いて来た事。
 綾瀬はそれを聞いた瞬間マンゴー・スムージを喉に詰まらせた。

「大丈夫、綾瀬?」

誰のせいだと思ってるんだ・・・・・

 心配し覗き込む若菜を、思わず冷たい目で見てしまう。
 見られた方の若菜は大好きな綾瀬が何故そんな目で自分の事を見るのか、理由が分からず
 思わず涙ぐんでしまう。

「綾瀬・・・・・・クスン・・・・・・」

 思った以上にキツク睨んでしまったらしい。
 若菜を泣かすつもりなど全くなかっただけに焦る綾瀬。

「泣くな若菜、ちょっと喉に詰まって苦しかっただけだ。 ほら、このスムージー美味しいから」

 愚図る若菜に、自分の持っていたグラスを近づけ、 ストローを無理矢理口の中に入れる。
 涙目で無言で吸い上げる。

「・・・・・・・・・美味しい!」

 あっという間に機嫌の直る若菜。
 現金な奴だと思うが、これで若菜の機嫌が直るなら万々歳。
 素直で優しく可愛い若菜は綾瀬にとっては癒し。
 いつでも笑っていて欲しい。
 それに、もし若菜を泣かしたと兄貴章が知ろうものならば、何を言われ、いや、何をされるか分
 からない。
 自分には被害がなくても、恋人に悠二にどんな不幸が行くかと思うと・・・・・
 悠二には冷たい言葉、態度をとっていても、本当は最愛の恋人なのだから。

「ねねっ、馴れ初めは?」

 話しがそれたかと思っていたのに、しつこく有樹が聞いてくる。

人が話をそらそうとしているのに、まだ聞くか!

 今度は有樹を睨む。
 同じように脅える有樹。
 威嚇する綾瀬に対し、珊瑚が「まあまあ」と宥めてくる。

「なあ、綾瀬。 どうしてそんなに話しをそらそうとするんだ? そんなに聞かせると不味いような
出会いなのか?」

「・・・・・・・・・・」

 鋭い指摘に無言の綾瀬。
 社会的に地位のある兄が、まさか二丁目のバーに行っているとは言いづらい。
 それに、若菜が自分や有樹を見てそんな店に行ったと知られるのも・・・・・
 それを台無しにするのは、当然若菜。

「そんな事ないよ、普通だよ!」

 そして、うっとりと語り始めた。



「貴章さんと初めて出会ったのは、新宿にあるオシャレなバーなんだ。 切っ掛けを作ってくれ
たのは、有樹と綾瀬なんだよ。 二人には感謝してもしきれないくらい」

「僕と綾瀬?」

 有樹は不思議そうに綾瀬を見る。
 綾瀬は苦虫を潰したような顔。
 
「そうなんだ。 有樹が彰君とつき合う事になったって教えてくれたでしょ」

「うん」

「僕その時まで、交際は女の子とするもんだって思ってたんだ。 でも女の子との交際がイメー
ジできなくて。 で有樹は男の子と交際するって聞いて『成る程、そういう交際もありなんだ』っ
て思って。 そしたら今度は、買い物してたら綾瀬が悠二さんと一緒で『綾瀬の彼氏です』って
言われて。 やっぱりありなんだって思ったの」

 綾瀬としてはその先は聞きたくなかったが、若菜が不都合な事を 言ったら直ぐに押さえよう
 と我慢して聞く事に。

「それで、何処にいけば良いのか分からなくって調べて」

調べた?

 若菜は一体何を調べたのか、珊瑚はとても気になったが綾瀬の雰囲気がとてもピリピリとし
 てきたために黙っておく事に。

「凄くオシャレなバーを見つけてそこに入ったんだ」

・・・・・・バー? それって・・・・・

 綾瀬を見ると今度は顔つきが変わっていた。

て、事はやっぱり二丁・・・・・

 考えるのを止める。
 
「それでそれで?」

 言葉の奥にある意味気付いていない有樹はその先をせかす。
 綾瀬の変化にも全く気付いていなかった。
 有樹もある意味大物だ。

「そこでお酒飲んで酔っぱらって倒れそうになった助けてくれて介抱してくれたのが貴章さんな
の〜。 一目惚れっていうの? 「大丈夫?」って掛けてくれた声が凄く素敵で、抱き留めてく
れた手が凄く優しくって、顔も凄く素敵で、それで凄〜く優しい目で、それで・・・・」

「もういい・・・・」

 どこまでも続きそうな若菜を止める綾瀬。
 あまりの惚気っぷりに珊瑚は机の上に倒れ込んでいた。
 有樹は羨ましそうな顔で「いいな〜」と呟いている。

 途中で止められた若菜は不満そうな顔。
 まだ言い足りないらしい。
 しかし、突然表情が曇る。
 当時を思い出したらしい。

 大好きな綾瀬の兄。
 なんの取り柄もないと思っていた若菜は、「大好き」という思いを封印し貴章の前から姿を消
 そうとしたのだ。
 たった数日の思いを抱えて。

 貴章の若菜に対する思いも強く、見つけ今のラブラブな状態に至る訳だが。

マズイ!

 暗くなって行く若菜の気をそらさないと。
 
「有樹は? 有樹は葛城とどうやって知り合ったんだ?」

 綾瀬は話を咄嗟に有樹に振った。

「えっ、僕!?」

 まさか自分に話しが振られるとは思っていなかったので思い切り慌てる。

「僕も?」

「そうだ!」

 綾瀬に力強く言われ周りを見る。
 暗かった若菜の表情が、今はキラキラと。
 有樹の話を聞こうと輝いていた。

 綾瀬の作戦は成功した。

「僕達の事なんか別にいいよ」

 言葉では嫌がっているが、頬を染め、目では聞いて欲しいと訴えている。
 綾瀬と珊瑚は呆れ、若菜に至っては身を乗り出していた。

「・・・・・若菜座れ」

「え〜、だって早く聞きたいんだもん。 じゃあ、先に綾瀬の話でもいいよ」

「さあ、とっとと話せ有樹」

 自分に矛先が向きそうになった綾瀬は有樹を急かす。
 珊瑚に至ってもそうだ。

「そうだ、そうだ早く聞かせろ!」

「え―、でも―」

 有樹は目の前に置かれている、アイスティーをストローでかき回しモジモジと。
 焦れる珊瑚。

「早くしろよ」

 声が思わず低くなり、ついでに睨みも効かせる。
 漆黒の瞳に睨まれて慌てて話だす。

「一目惚れしたんだって」

 いきなりそんな言葉から。
 
こいつ、若菜に似てきたな・・・・・

 そう思う、綾瀬と珊瑚。
 
「僕と一緒」

 嬉しげに話し始めようとする若菜。
 黙っていろと隣に座っていた綾瀬が若菜の口を押さえる。
 そうでもしないと自分達の事を延々と話すから。
 藻掻く若菜を押さえ、綾瀬は先を急かす。

「僕、去年なんだけど、生まれて初めてラブレター貰ったんだ。 姉さん達には『「そこら辺にい
る女の子より、有樹の方が可愛いから彼女は出来ないわよ』とか『彼氏の方が可愛かったら
女としての立場がないじゃない』なんて言われてたからもう嬉しくって。 手紙の名前も『本庄
すなお』って書いてあったから迷わず書いてあった体育館裏に行ったんだ」

『本庄すなお』って確か去年卒業した空手部の嫌われ者?

 珊瑚が入学したての頃言い寄られた事があった。
 その時は珊瑚の取り巻きに追い払われたのだが。

あいつ、有樹にも手を出そうとしたのか。 自分の顔見て出直せって感じだよな。 『すなお』じ
ゃなくて『岩男』だよ『岩男』

 インパクトのある顔を思い出し、うん、うんと頷く。

「珊瑚?」

 一人何かに納得し頷く珊瑚を不審に思う。

「あ、悪い。 それで?」

 我に返り先を促す。

「うん、それでね、襲われた時に・・・・・」

「え〜襲われた!?」

 若菜の口元を押さえていた綾瀬の手が緩む。
 すかさず若菜が叫ぶ。

「煩い・・・・・」

「モガ、フガッ!」

だって、襲われたんだよ〜〜

 改めて口を塞がれてしまう。
 抗議の眼差しで綾瀬を見るが、綾瀬は無視。
 それでも暴れる若菜に綾瀬は一言。

「よだれ垂らして寝てる写真、兄さんに見せるぞ」

「!!」

 いつの間にそんな写真を。
 いや、そんな写真は撮られてない筈。
 そうだ、撮られているものか。
 そんな思いも虚しく。

「隣の席の荒井に撮らせたのがあるからな」

「モガァ〜〜〜〜〜!(嘘〜〜〜〜〜!)」

「因みに、今俺の携帯に保存されている」

「フガァ〜〜〜〜〜!(嫌〜〜〜〜〜!)」

「大人しくするな」

 脅す綾瀬に、若菜は涙目で必死に頷く。
 それを見て綾瀬は手を離す。

「ホント?」

 綾瀬は無言で自分の携帯を取り出し、保存していたデータを開く。
 そして目の前に突きつけた。

「―――――――!」

 声の出ない叫び。
 いつの間に撮られたのか、そこには確かにヨダレを垂らし、机の上で眠りこける自分の姿が。
 若菜はムンクと化した。

「分かったな」

 半べそで更に大きく頷く若菜だった。

ヒドイよ綾瀬・・・・・あんな姿、貴章さんに見られたら僕恥ずかしくて死んじゃう〜〜〜
絶対に消してやる〜〜〜

あ、悪魔だ・・・・・・

 この瞬間、珊瑚と有樹は新たに綾瀬には逆らわないようにしようと誓ったのだった。

「襲われてどうしたんだ?」

 突然話を切り替えられる。

「え、あ、うん。 そしたらそこに彰が来て助けてくれたんだ」

 きっと何処か、離れていた場所から有樹の事を見ていて、血相を変えたに違いない。
 視線は常に感じていた。
 自分と一緒にいる有樹に向かって。
 しかし行動はおこしてこなかった。
 ただ、熱い視線で有樹を見ているだけ。
 
 綾瀬が目を光らせていたからか、それとも有樹が男だからなのか葛城の心は分からないが、
 ただ見つめているだけだった。

 それが『本庄すなお』の行動で変わった事は間違いない。
 これからも『本庄』のような男が現れるかもしれない。
 そういう心配もあり、見ているだけを止めたのかも知れない。

「でね、助けてくれたのは嬉しかったんだけどその後が・・・・・」

 顔を真っ赤にする有樹。

「何、何、何〜?」

 興味津々で聞く若菜。

「キス・・・・・されて・・・・」

「きゃ〜〜〜〜v」

「凄く強引なんだよ、キスは勝手にして来るし、朝は迎えに来るし、帰りも送って行くって聞か
ないし。 休み時間だって・・・・・」

「うんうん。 来た来た。 休み時間になると必ず来たよね〜。 昼だっていつの間にか一緒に
御飯食べてたし」

 二人だけで話が盛り上がって行く。

女子高生かよ・・・・・・

 珊瑚はため息を吐き、綾瀬に至っては話を振らなければ良かったと後悔していた。



 まだまだ盛り上がる若菜と有樹。
 最初は照れていた有樹だったが、本当は聞いて欲しかったらしい。
 ここぞとばかりに惚気ていた。
 若菜も負けずに惚気ている。

誰か止めてくれ・・・・・

 本当は止めたい。 
 止めたいのだが今この二人を止めようものならば次は自分達に回って来るのは間違いない。

それだけは嫌だ・・・・・

 惚気話を散々した二人はとても満足そうだった。
 ひたすら話続けたので喉が渇き目の前の飲み物を一気飲み。
 足りなかったのか、新たに注文を。

「はぁ〜、疲れたね」

「うん、でも楽しかった」

 満足げな二人を見て、これなら自分の所に話が回って来ないなと安心し飲み物を口にした
 二人だったが・・・・・・

「で、綾瀬は? 綾瀬は悠二さんとどうやって知り合ったの?」

ゲホッ!

 安心し過ぎていたためにマンゴースムージーを思い切り詰まらせてしまった。

「大丈夫綾瀬!」

 暫く咳が止まらない。
 若菜は一生懸命綾瀬の背中をさすった。

「死ぬかと思った・・・・・・」

「ビックリした〜、ホント大丈夫?」

 大丈夫な訳はないが、また睨もう物なら若菜が泣きべそをかくだろう。
 毎度の事ながら、それだけは勘弁して欲しい。
 
「・・・・・大丈夫だ、気にするな」

 そんな言葉に若菜はホッとなる。
 貴章とは違う意味で大好きな綾瀬に、もし何かあれば若菜はどうなってしまうのだろう。


「で、綾瀬は?」

やっぱり聞くのか・・・・・・

 ジッと若菜を見つめる。
 お互いに見つめ合う。

「そうだよな、綾瀬はどうなんだよ」

 珊瑚が口を挟んで来る。
 自分に話しを振られなかったから、珊瑚が喜々として綾瀬に対し聞いて来る。
 それだけ珊瑚も必死。
 何とかして自分から話しを反らそうと。

「綾瀬の彼氏にはまだ会った事ないけど、どんな彼氏なんだ? 綾瀬の事だから面食いなん
だろうな。 兄貴が超絶美形だからそれ以上?」

 その言葉に真っ先に反応したのは若菜。

「貴章さんが一番カッコイイもん!」

「うん確かに」

 有樹もその言葉に同意する。
 彰は誰が見てもカッコイイ。
 高一ながらも落ち着いているし、頼りがいもある。
 街を歩けば皆が注目している。
 後数年になれば大人の魅力も加わる。
 自慢の彼氏なのだ。
 しかし、若菜の彼氏で綾瀬の兄である久我山貴章に関しては別。

こんな人が存在するんだ・・・・・

 初めて見た時幻かと、自分を疑ったくらい。
 強烈だった。
 しかし恐ろしくもあった。
 どこまでも冷たく、暗い瞳。
 あんな目で見られたら誰もが闇の恐怖に浸るだろう。
 ただ、若菜という存在が横にいるから、まだ穏やかなのかも知れない。
 若菜の友人だから、そんな瞳を見なくてすんでいるのかも知れない。
 漠然とだが有樹はそんな風に思えた。
 そして、あの完璧な姿を思い出し頷く。

 綾瀬に話しを振った筈だったのに反れてしまった。
 これではいつ自分に話しが向いておかしくない。
 
しまった〜

 などと珊瑚が思っていると、珍しく綾瀬が声を荒げた。

「煩い! 確かに兄さんは誰が見ても完璧な容姿だ。 まるで神の手で作り上げられたそんな
ふうな。 それだけじゃなく、頭もプロポーションも誰よりも。 でも悠二だって良いセンはいって
るんだ。 確かに見かけは軽い。 ホスト系の顔だとも思う。 でも俺一筋なんだよ!」

 ゼイゼイと息を切らす綾瀬に三人はポカ〜ンとした表情。
 
しまった!

 気が付いたが遅かった。
 言った言葉は元には戻らない。
 冷や汗がダラダラ流れる。

「やだ〜綾瀬ったら〜もう熱々なんだから〜〜」

「凄いね、初めて聞いたよ。 綾瀬って熱いんだね・・・・・」

 二人は心から賞賛していた。
 それだからこそ余計恥ずかしい。
 綾瀬の顔は見事真っ赤。

「「可愛い〜綾瀬」」

 はしゃぐ若菜と有樹。

「・・・・・変わったよな・・・」

 ボソリと呟く珊瑚。
 そしてしみじみと。

「人を全く寄せ付けず、一部では『氷姫』とか呼ばれてた綾瀬がこんなに熱く恋人を語るとは・・
・・。 それも顔を真っ赤にして。 若菜効果ってやつ? いや、若菜に似て来たって事か?」

「!」

若菜に似てきた!?

 この言葉はショック。
 そんなショックを受けている綾瀬を見て若菜は膨れる。

「・・・・・・・なんでショック受けてるの・・・・・」

 そして珊瑚はさらに調子に乗って行く。

「ホント、可愛いぞ。 そんな熱く語られるとは思わなかったぞ」

 ニヤニヤと笑う珊瑚。
 思い切り睨み付ける。
 が、今の珊瑚には全く効かない。
 からかいたくて仕方ないのだ。
 普段からかわれているだけに、この機会は逃せない。

「で、出会いはどんな出会いなんだ?」

 珊瑚の反撃に合いながら冷静になろうと目を閉じ水を飲む。
 その間にも珊瑚は色々と聞いてくる。





Top  Next



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送