本当の気持ち
(3)







うぎゃー!
 
 昨日の出来事を全て思い出した。
 あまりの恥ずかしさに全身が赤くなる。

何で酔ってんの!
好きってなに!? 
初対面でしょ! 
エッチまでしちゃうし!?
何回も・・・・・・・あんな声までぇぇ・・・・・
 
 自分の恥ずかしい態度、言葉の数々を思い出し、情けなくて涙が出て
 きた。

はぁ〜、でも格好いい〜
やっぱり好きかも〜

 貴章の寝顔を見てウットリする。

ダメダメ!
綾瀬のお兄さんなんだから

 綾瀬は3人兄弟で末っ子。
 その上に25歳の兄浩人(ひろひと)。
 そしてその上が27歳貴章。
 2人の兄はそれぞれ家を出て暮らしている。 
 家は、ホテル・デパート・リゾート開発・飲食業などを手がけている久我山
 グループ。
 貴章はその中のホテル・リゾート開発の会社を任されていた。
 普段はとても忙しく、1年に1回会えれば良い方だと、綾瀬が言ってい
 た。 

 綾瀬の家のリビングに家族の写真が何枚も飾られていたので、顔は覚
 えていたはずだったのに・・・・・・・。
 写真と目の前にいる貴章の印象が違いすぎていた。
 写真での貴章は無表情で、目つきは鋭く、冷たく怖い印象だった。
 しかし、目の前にいる貴章は優しい眼差しで自分を見ていたから。

同じ人には見えないよ〜〜 

 眉間に皺を寄せ、この後どうしようかと一生懸命考えていた。

「止めなさい。 跡が残る。」

 声と共に貴章は眉間に手を触れる。
 いつの間にか貴章が起き、若菜を見ていた。
 その声と仕草に顔を真っ赤にする。

「あ・・・・・・・。 おはようございます・・・・・・・。」

「おはよう。 躰の具合は?」

チュッ

 瞼に口づけられる。

「ひゃっ!」

 突然なのと恥ずかしさで顔を伏せる。
 やっぱり別人なのか?
 もし、写真の人物ならばこんな事恥ずかしい事をするような人には見えな
 かったから。

「何故顔を隠す」

 伏せた顔を両手で挟み、自分に向ける。
 貴章の優しい甘い顔を見て、真っ赤になる。
 そして貴章は真っ赤になった若菜が愛しくて仕方がなかった。

うわ〜〜ん
絶対違う人だよ〜
あの綾瀬が冷酷って言っちゃう様な人なのに〜〜
そうだ!
よく似た別人さんだ!

 無理矢理そう思い込む事にした。

「ん?」

「恥ずかしいんですけど・・・・・・・・・。」

「恥ずかしがる事はない。 誰もいないのだから。 それより躰は大丈夫な
のか? 何か食べるか?」

 額を付け瞳をのぞき込む。

ひぃぃぃ〜〜〜

 頭はパニックを起こしていた。 

「あの、あの、あの・・・・・・・・寝ます・・・・・・」

 ボソリ、と呟き布団に潜った。

「ああ、そうだな。 昨日は無茶をしたからゆっくり休んでいなさい。」

 布団の上からゆっくりと若菜を撫でた。

「もし、何か必要な物があれば、これを鳴らしなさい。 隣りにいるから。」

 布団から出ている頭に口づけてベットから降りる。
 枕元に鈴を置き、バスローブを羽織り寝室から出て行った。
 ガチャ、っとドアの閉まる音を聞いて頭を出す。
 取り敢えず一安心。 

 本当に、この後一体どうしたらいいのやら途方に暮れる。 
 自分は貴章の事を知っているが、貴章は知らないはず。
 もし知っていたとしても、今の自分と普段の自分は外見が全く違うから、
 絶対に分かるはずが無い。
 身につけていた物からも自分と分かる物は無い。
 携帯は置いて来た。
 財布にも自分を確定する物は全て出し、現金しか入れなかった。

絶対に分からない筈・・・・・・
多分・・・・・・・・

 窓からは明るい光が。
 ベッド脇の時計を見ると11時。 

「昨日は金曜の夜だから、今日は土曜の朝かだよね・・・。 土、日が休み
で良かった〜。 動けないし。」

 言いながら、昨日、実際は明け方までの出来事を思い出し赤くなる。

貴章さんてば、あ、あんなにエッチだなんて・・・・
でも、気持ちよかったし・・・・
でも、でも、だからって意識が無くなるまでしなくっても
初めてなのに〜
それなのにあんなに感じちゃって・・・・・・・
僕ってばなんて厭らしい 嫌われゃう・・・・

 ベッドの中で頬に手を当て首を左右に振ったり、シーツに顔を擦り付け
 たり藻掻く。

ううん、もう逢わないんだし
どうして、綾瀬のお兄さんなんだろう
どうして、好きになっちゃったんだろう・・・・・

 幸せな気分が一気に暗くなる。
 膝を抱え丸くなって考えているうちに寝てしまった。
 次に目が覚めると部屋の中は真っ暗。
 思った以上に躰は疲れていたようだ。
 枕元を見ると電子時計はPM8:30。
 どうりで腹も空いているはずだ。
 部屋に中を見回すと光が漏れ話し声が聞こえる。
 ゆっくりと身体を起こすと隣りの部屋にいた貴章がその気配に気付きドア
 を開け、電気を付ける。 
 光の眩しさに若菜は目を閉じる。

「よく寝ていたな」

 ベットに腰掛け、若菜の髪を梳き、髪に口づける。
 擽ったさに身を捩ると開いたドアの向こうに綾瀬が立っていた。
 目を見開き、口を開け呆然としていた。
 いつも冷静で冷たい表情の綾瀬が見せた初めての顔。
 普通の状態ならば『あはははは。』と思いっきり笑うのだが、今の自分の
 状況を考えると笑えない。
 なぜなら自分は何も身に付けていない。
 下半身は辛うじてシーツに隠されていたが、上半身は貴章が付けた赤
 い印が丸見えだった。 

どうしよう!
どうしよう!

 顔は真っ青になり、本日二度目の貧血を起こしそうになっていた。

 そんな若菜に気づき、貴章はドアを振り返る。

「チィッ!」

 色っぽい若菜を綾瀬に見られ舌打ちをする。
 その瞬間、若菜は綾瀬に向かって、手を合わせ、ギュッと目を瞑った。

お願い、知らないふりして!

 貴章は若菜を隠すように立ち上がりドアまで行く。

「綾瀬、もう帰りなさい。」

 冷たく言い放ち、ドアを閉めた。
 ベットに戻り、真っ青になっている若菜を優しく抱きしめる。

「心配ない。 弟だ。」

「でも、こんな格好で・・男で・・・・・・」

「ああ、あれの恋人は男だから心配ない」

 それは知っている。
 知ってはいるのだがそういう問題ではない。

「今食事を持ってくるから待っていなさい」

 そう言い、軽く口づけ出て行った。

 

 冷たい言葉、鋭い目つきにゾクリとし、閉められたドアを呆然と綾瀬は見
 ていた。

・・・・・・今のは若菜・・・・? 

 何故若菜が? 一瞬しか見えなかったが絶対若菜だ。
 見間違えようもない美貌。
 何故兄貴章の部屋に・・・・。
 しかも裸。
 白い肌に付いていたのは大量のキスマーク。
 泣きそうな顔をしながら手を合わせ、ギュッと目を瞑っていた・・・・。
 多分あれは、黙っていてくれという事だろう・・・・・。

あの内気な若菜が・・・・・

 しかし、それ以上に驚いたのが兄貴章の態度。
 何時も冷静で感情も外に出さず冷たい眼差し。
 何かに執着した事など見たこともない。
 それが、甘い声に優しい眼差し。 

あれは一体誰・・・・?

 ドアが開き貴章が出てくる。

 帰れと言った綾瀬がまだ居た事に機嫌が悪くなる。
 弟に見られた事に対し、顔を青くし今にも倒れそうになっていた、愛し
 い存在。
 不安を取り除いてやらなくては。
 何時も以上に冷たい態度になる。

「聞こえなかったのか? 早く帰れと言っただろう。」
 
 余りにも険悪な雰囲気に、知らず下がってしまう。
 普段から冷たくてもここまで凶悪な態度を取られた事はなかった・・・・。

怖い・・・・・ 

 しかし、今見た光景がどうしても気になった。

本当に若菜だったのか?
無理矢理なのか
いや、あの二人の雰囲気からは甘いムードが漂っていたから、それは
絶対ないだろうが・・・・
 
「・・・・あの・・・、今の人は・・・・」

 思い切って聞いてみた。

「お前には、関係ない。」

 冷たくあしらわれる。
 もう一度別な訊き方をした。

「一瞬しか見えなかったけど、凄く美人だった・・・・・。 恋人・・・・?」

 綾瀬の口調は非難ではなく、どちらかと言うと心配げな様子。
 そんな綾瀬の姿に、愛しい存在を不安にさせた憤慨していた気持ちが
 少し落ち着いていく。
 雰囲気も少し和らぐ。
 
「・・・・・・そうだ」
 
 実際にはまだだが、手放すつもりは全くなかった。 

「名前は? 年は? いつからつき合ってるの?」

 いつもなら直ぐ引くのに今日の綾瀬はしつこく食い下がって来た。 

何故だ?
 
「・・・・知り合いなのか?」

しまった
しつこくしすぎた・・・
 
 内心の動揺を隠し惚ける。

「いや。 貴章兄さんの恋人なら、これからずっと付き合って行く訳だし。」

 騙せただろうか。
 不審な顔
をしていたが、それ以上は聞かれなかった。
 これ以上は自分に無理がある。
 月曜日に直接若菜に聞く事に決めた。

「じゃあ、帰ります。」

 足早に玄関に向かった。





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