一つの未来(1)
(恋は盲目)

キリ番10001を踏んだSEN様より「二人の、ラブラブデート」
本編はまだ終わっていませんが、未来の二人を書いてみました。







「今日は天気がいいから、デートしましょう」

 恋人で同棲中の恭夜に作って貰った朝食を食べている時の事。

 稔は高校卒業と同時に家を出て一人暮らしを始めた。
 その期間約一ヶ月。
 何故一ヶ月かと言うと、その後は恭夜と一緒に暮らしているから。

 何とか一人暮らしの感覚が掴めてきたある日の事、突然恭夜が引っ越
 し業者を伴いやって来た。
 あれよあれよという間に荷物をトラックに詰め込まれ、恭夜の借りたマ
 ンションに連れて来られた。
 抗議も虚しく却下。

 恭夜が大学卒業したと同時に、今住んでいるこのマンションを購入。
 叔父英和の会社に近いという理由で。
 車で10分。
 電車でも30分は掛からない。
 近いが都心にある為に億まではいかない物の、それなりに良い値段が
 していた筈。
 それをあっさりと買ってしまったのだ。
 もし仕事が遅くなる事があっても直ぐに帰る事が出来る。
 それに昼休みに家にいる稔の顔を見る事が出来るという理由で。

 一緒に暮らし、後2年で同棲生活10年になるというのに今更デート。
 考えている事が今だに解らない。

「ここで、俺が嫌だと言ったら?」

 別に恭夜と出かける事は嫌では無いが、何となく言ってみたかった。
 
 20代後半になって、益々男の色気に磨きが掛かっている。
 大学卒業後、叔父の会社に入社し仕事をしている。
 会社役員に名を連ねているにも拘わらず、敢えてそれは言わずに平社
 員として仕事をしている。

 同僚は恭夜と同じ名前の役員がいる事を知っているが、社長の身内だ
 と聞いてもいないし、こんな若い役員がいる訳がないと思っている。
 役員会議も面倒臭いと言って出ていない。
 後で叔父本人から、会議内容を聞けばいいのだから。
 他の役員からも特に文句も言われない。
 ソフトの開発、会社の運営の仕方、あらゆる所に恭夜の意見が盛り込
 まれ飛躍的に成長しているから。
 もし怒らせでもしよう物ならば、恭夜はあっさりと会社を辞めるだろう。
 そして、今まで居た自分の、叔父の会社という事関係なく報復するに違
 いない。
 社長からキツク言われているのだ。
 その事は嘘でも何でもない事を見てきた。
 
 入社当時から優秀な恭夜。
 当時の恭夜の上司も会社の中ではかなり優秀な社員。
 30代前半にも拘わらず課長職に就いていた。

 しかし、顔も良く新人にしてはかなり使える恭夜の存在は驚異。
 今のうちに潰しておこうと、納品直前のソフトをほんの少し弄ったのだ。
 恭夜が損害を出したとしても、自分がその穴埋めをすればいいし、出来
 ると思ったから。
 そんな上司の行動は予測していたため、叔父と一部の役員だけに「邪
 魔者を排除する」と言い品物も先に納品、組み込まれた後だった。
 知らずにいた上司、いつまで経っても欠陥報告が来ない事に苛立って
 いたある日、納品後の自分のソフトに欠陥が見つかり、会社に莫大な
 損害を与えてしまったのだ。
 当然会社はクビ。
 それに伴う損害は恭夜が埋めた。
 損害以上の金額で。
 方法は違えど、自分に向かって来る者は全て排除して行ったのだ。
 兎に角、恭夜のする事に役員達は口出しする事は出来ない。
 自分の身が可愛いから。

 
 比べ稔の方は相変わらずの童顔。
 身長も結局高校の時と変わらぬまま。
 外に出る事も無いために肌の色も真っ白。

 北海道旅行の時に見た写真が忘れられず、稔は本格的に写真を始め
 ようと思い勉強し、都内の写真学科のある大学を受験し合格した。
 当然カメラも必要。
 そこに付く付属品も色々あり何かと物いりに。
 当然バイトも始めた。
 
 ようやく恋人としてつき合うようになっても肝心の稔が忙しく、ゆっくり逢
 う事の出来ない状態に恭夜がキレたのは言うまでもない。
 一緒に住み、「自分もカメラが趣味だから」と嘘を吐き、カメラにレンズ、
 その他付属品を購入。
 さも前から持っていたかの様に言い、稔に使わせている。
 どこから見ても新品なのに。
 盛大なため息を本人の目の前で吐きながらも使わせて貰っている。
 使わないと捨てると言ったため。
 「自分の趣味じゃなかったのか」と突っ込みたかったが、止めておく。

 バイトも止めろと言われたが、これは断固拒否。
 「働かざる者食うべからず」と言って。
 高校生に養われる事だけは、男なだけにプライドが許さなかった。
 その代わりバイトの送り迎えをされる事に。
 嫌だと言ったが「俺は稔さんの言う事を聞いたんですから、稔さんも聞
 いて下さい」と却下された。

 写真旅行に行く時は必ず付いて来た。
 大学とバイトに行っている間以外はいつも一緒。
 それは今でも変わらない。

 大学を卒業してから、恭夜が家に居ない時にしか外出出来なかった。
 「俺が帰る前には家にいて下さいね」と勝手な事を言われ、偶々恭夜
 より帰りが遅くなった時、「約束を破りましたね」と言ってその日の夜は
 凄く恥ずかしい目に合い、次の日起きあがる事が出来なかったのだ。
 その日以降遅くなる事は無かったのだが・・・・・・
 会社に行っている時もメールを送ってくるし。
 恭夜の束縛は激しかった。
 それに馴れてしまった自分が怖い。
 分かっていても好きなのだから。
 

「稔さんは俺と出かけるのは嫌なんですか」

「嫌じゃないが、家でゆっくりしていたい」

「駄目ですよ、たまには外に出ないと」

 中学と高校の途中まではアウトドア派だった稔。
 誰のせいでインドアになったと思っているんだか。
 そんな事はすっかり忘れている恭夜だった。

「・・・・・・・仕方ない」

 ワザとため息を吐く。
 少し位意地悪をしても罰は当たるまい。

「もっと楽しくして下さい。 海へ行きませんか」

 海へはもう何年も行っていない。
 無性に行きたくなった。

「行こう!」

 途端顔を輝かせる。
 そうと決まれば急いで朝食を済ます。
 着替えて温かい格好に。
 
「さあ、出来たぞ」

 稔はカメラバックを持ち玄関へ。
 早く早くと恭夜を急かす。
 苦笑しながら作った弁当を持って玄関へ。
 
「なあ、それ何だ?」

 手に持ったバックが気になるらしい。
 ワクワクしながら聞いて来る。
 
「これは昼の弁当です。 稔さんの好きな物ばかりですよ。 デザートもち
ゃんと」

 バックを軽く上げ言う。
 好きな物ばかりと聞き、目がキラキラ輝き始める。
 もうすぐ30とは思えない。
 何年一緒にいても自分を魅了して止まない。
 初めて見た時のままの瞳。
 この瞳・表情のない時があった事が嘘の様だ。
 それは自分のせいなのだが。
 取り戻せる自信もあった事も確かだ。
 とにかく手に入れたかった人。
 それが手に入り、いつも一緒にいられるというこの幸せ。
 これからも手放す気はない。

「どうした。 行くぞ」

 稔に心配そうにのぞき込まれていた。

「そうですね、行きましょうか」

 駐車場に行き車に乗り込む。
 稔は免許を持っていないため運転はいつも恭夜だけ。
 申し訳なく思うが、恭夜が取らせてくれないのだ。
 「出かける時は一緒ですから、取る必要はないんですよ」と言って。
 一緒だからこそ一人で運転させるのは気が引けるのに。
 初めの頃は乗るたびに、その事いついて話していたのだが、全く取り
 合って貰えなかった。
 今では諦めている。

 車は首都高を走り東名高速道路へ。

「・・・・・・なあ・・・・何処の海に行くんだ・・・・」

「下田です」

「・・・・・それって静岡だよな」

「そうですね」

「どうして静岡なんだ・・・・・?」

「綺麗ですよ」

「・・・・・・・・・」

 てっきりお台場か、行って湘南かと思っていた。
 そこで十分だと思っていたのに静岡・・・・・
 やはり恭夜の考えている事は分からない。
 確かにお台場や、湘南の海よりも綺麗だと思う。
 行った事はないが、テレビで見る限りは綺麗だ。
 
「本当は沖縄でも良かったんですが、日帰りだとキツイですからね。 ま
た今度は沖縄に行きましょう。 本土も綺麗ですけど島の方が断然に綺
麗なんですよ」

 恭夜の頭の中は既に次の旅行の事を考えている。
 しかし、仕事が忙しすぎて連休は取れない筈では。
 週1の休みは確実に、稔と過ごす為に取ってはいるが。

「無理して休み取らなくて良いぞ。 忙しいんだから、休みの日はゆっくり
しないと身体壊すぞ」

「十分ゆっくりしてますよ。 俺は稔さんと一緒に過ごすだけで癒されるん
です」

 カーッという音が聞こえる位の勢いで、稔の顔が赤くなる。
 恭夜は会社では必要な事以外は話さないし無表情だが、稔に対しては
 口数も多いし、いつでも笑みを浮かべている。
 時々昔の本性の顔を出す時もあるが。
 まれな事だ。

「お前いつも言うけど、恥ずかしい奴だよな」

「全く恥ずかしいとは思いませんね」

 周りに人がいようものなら、聞いている方が恥ずかしくその場を去って
 行くだろう。
 恭夜の会社の人間が見たら、同一人物とは思うまい。
 無口でいてもモテる恭夜。
 勇気のある女は、自信のある女はアプローチをしているが冷たくあしら
 われている。
 こんな笑顔を見たら、今まで遠くから見る事しか出来なかった女達が我
 先にと争うだろう。
 無駄な事だが。
 そんな恥ずかしい話しをしながら車を走らせて行った





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