ハッピー・ウエディング(1)
(運命の人)

キリ番15,000を踏んだyo-yoさんより
拓巳が良太郎親子にどう対するのか・・・








 拓巳は悩んでいた。

 このまま、就業時間まで仕事をしていれば、間違いなく良太郎が
 自分を迎えに来るだろう。
 男の自分が同じ男である良太郎と付き合うだ、挙げ句婚約だな
 ど冗談では無い。
 第一自分の家族達が許すわけない。
 あの頑固な父親が。
 
 拓巳の実家は、現在大ブレーク中の人気ラーメン店。
 頑固者で自分の味にとても拘りを持つ父。
 昔から味は良かったのだが客とのトラブルが多々あり。
 そのお陰で、金銭的にもとても裕福とは言えなかった。
 今でこそ「拘り頑固親父の店」を全面に出し、客も味が良い為に
 受け入れよしとしている。

 その父が、自分の息子が男と婚約だなんて聞いた日には血の
 雨が降るのではないだろうか。
 背筋が寒くなる。
 こういう時に何故自分は営業では無く、経理なのだろうかと恨め
 しく思う。
 
 入社当時、拓巳は営業だった。
 そして毎日先輩と取引先の病院や、飛び込みで診療所、薬局な
 ども回っていた。
 とても真面目で、Drから新薬の事など他に薬の事を聞かれ先輩
 MRが答えに窮していても変わりに答えたりと優秀だった。
 新人のくせに、大口の取引先を開拓する事もあった。

 しかし、愛想がなかった。
 淡々と事務的答え、ニコリともしなかった。
 整った容姿のおかげで、「取引をする変わりにどうだ」と誘われ
 る事も。
 その度に、その綺麗で柔らかな容貌からは考えられない様な毒
 を吐き、時には腕力で切り抜けた。
 特に武道などを習っていた訳では無いが、4人兄弟で育っただ
 けにケンカ慣れしていたのだ。
 自分が悪い訳ではないが、返り討ちに合ったDrなどから苦情が
 会社の方へ。
 上司や一緒に回っていた先輩当然その苦情が嘘だと分かってい
 た。
 しかし苦情があっては、後の営業に差し障りがある。
 拓巳はとても優秀だからそんな嘘で、会社を辞めさせる訳には
 いかない。
 どうしたものかと上司が思っていた時に、経理で欠員が出たと
 連絡が。
 拓巳には申し訳ないと思ったが、一応本人に「経理で仕事をして
 みないかね」と聞いてみた。
 セクハラDr達にいい加減うんざりしていただけに、この申し出は
 大変ありがたく、その場で直ぐに異動を受け入れたのだ。

男に誘われる事も無く平和に毎日を過ごしていたのに・・・・・・
ああ一週間前の静かな時間に戻りたい・・・・・ 
  


 新入社員として今年大学を卒業して入って来た社長の息子。
 「現場に携わらなければ良い経営者にはなれない」と社長であ
 る父親に言われ営業に配属。
 その営業部の新人が挨拶に来たその時から、拓巳の不幸は始
 まったのかも知れない。

 一週間前の入社式の後、本社勤務になった新人がそれぞれの
 部署の挨拶に来た。
 当然良太郎もその時一緒に挨拶に。
 
「奥寺良太郎です。 足手まといにならない様頑張ります。 ご指
 導ご鞭撻宜しくお願いします」

 社長な息子というだけで、態度がでかく感じの悪い奴に違いな
 いと思っていただけに、この爽やかで腰の低い挨拶は好印象に
 映った。

 そして甘い顔立ちに二枚目な容姿。
 スラリとした長身で清潔感にあふれ、頭も国立のトップの大学を
 卒業という。
 女子社員は一斉に目を輝かせた。
 自分には関係ない事だと、挨拶を聞き終えさっさと自分の仕事
 に専念していた拓巳。
 気配を感じ顔を上げ振り返ると、そこに良太郎が立っていた。
 自分に何か用でもあるのかと思い「なにか?」と聞くと、いきなり
 拓巳の手を取り

「一目惚れです。 俺と付き合って下さい!」

 と言ってきたのである。
 
「「「え―――――――――!」」」

 フロア中に響き渡る声。
 拓巳は言葉を理解出来ずに茫然自失。
 手を振り払わないのをいい事に今度は抱きしめて来た。
 
「こんなにも俺の理想にピッタリの人がいるだなんて・・・・・奇跡い
やもう運命の出会いとしか言い様がないです。 幸せだ・・・・・・」

 良太郎に顔が迫って来る。
 ハッと我に返り顔を押しのける。

ベチッ!

 鈍い音。
 周りは顔面蒼白。
 見ると手のひらが良太郎の顔面に見事ヒットしていた。
 
「あ、悪い」

 自分が悪い訳ではないのに思わず謝ってしまった。
 手を放すと顔面中央が赤くなっていたが、しぶとく拓巳の事は放
 さなかった。

「いい加減放せ」

 冷たい口調、眼差しで良太郎を見る。
 しかし良太郎は全く気にしない。

「嫌です。 付き合ってくれたら放します」

 冗談ではない。
 何が悲しくて男と付き合わなくてはいけないのか。
 経理に来て男から誘われる事も無くなり、平和な毎日を過ごして
 いたのに。
 社長の息子だかなんだか知らないが、付き合っていられない。

「嫌だ。 断る」

 断られると思っていなかったのか、明らかにショックを受けてい
 た。
 相手が怯んだ隙に腕から逃げる事に成功。
 また抱きしめられてはいけないと、急いで離れ机の反対側へと
 逃れた。

「どうしてですか。 一目惚れなんです。 俺の何処が気に食わな
いんですか? 自分で言うのもなんですが、頭も顔も良いし、お金
だってあります。 何がいけないんですか」

 そう言った瞬間に先ほどまで皆の中での好印象な青年は何処
 かへと飛んで行った。
 
かなり傲慢・・・・・
自意識過剰
性格悪そうかも・・・

 しかし社長の息子なだけに誰も突っ込まなかった。
 それ以上に拓巳の良太郎への対応に上司の顔が青くなってい
 た。

「自分で言うとは最低だな。 それに一目惚れだなんて相手の人
格を馬鹿にしている。 金にしたって親の金だろ。 お前のような
馬鹿ボンには用はないから、さっさと自分の仕事場に戻って仕事
をしろ。 新人で仕事も出来ない奴とは話もしたくない」

 そこまで言うかと、周りでは悲鳴を上げる者も。
 だがそんな容赦のない言葉にも良太郎はめげない。
 全くだと頷き真剣な顔を向ける。

「そうですね。 まず俺の仕事ぶりを見て貰わなくては。 あと金
は親の金では無く俺が株だの投資だのして稼いだ金です。 諦
めませんから。 ではお騒がせしました。 失礼します」

 何事も無かったかの様に良太郎はフロアを後にした。
 去ったあと皆が緊張から解かれそこいらで脱力していた。
 社長の息子が経理の拓巳に告白したという噂は瞬く間に広が
 り、行く先々で好奇の目で見られた。
 冗談だと思っていた他の者も、そこかしこで良太郎が拓巳を追
 いかけ「好きです」と告白している姿を見、噂が事実だと知った。
 
 入社して数日の新人とは思えない仕事ぶり。
 大口の契約をあっさり取ったりしてきている。
 初日の傲慢な口ぶりも今では皆が認めている。
 毎日朝・昼・晩と告白し断られているのにも関わらず、めげずに
 やって来る良太郎にはほとほと困っていた。

 最近では「これだけ思われているんだから、男とか気にしないで
 付き合えば」などと無責任な事を言う輩まで出て来ていたのだ。
 そしてトドメが、本来軌道を外した息子を修正しなくてはいけな
 い筈である社長で父親の良一が、息子の恋を応援し婚約など
 と言い出した。

やっぱり逃げよう・・・・・

「部長、大変申し訳ありませんが今日は早退させて頂きます」

 何か言おうとした上司を視線で威嚇し、さっさと荷物をまとめ出
 て行った。
 緊張に息を潜めていたフロアが、拓巳の姿が見えなくなった瞬
 間息を吹き返した。
 慌てて部長の山内が受話器を取り上げ何処かへと連絡した事
 を拓巳は知る由も無かった。





 
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