2万Hits企画






 下駄箱に入ったラブレター。
 放課後.。
 体育館裏。
 愛の告白以外の何ものでもないシチュエーション。
 楽しみにしていたのに・・・・・・


 岬有樹(17)
 私立白鳳学園に通っている。
 共学だ。
 亜麻色の髪、透明感のある白いは肌、柔らかな印象の顔立ち。
 家族からは常日頃から「そこら辺にいる女の子より、有樹の方が
 可愛いから彼女は出来ないわよ。」「だって彼氏の方が可愛かっ
 たら女としての立場がないじゃない。 諦めなさい、その内きっと
 格好いい彼氏が出来るわよ」等と言われていた。
 とても不満だったが、誰かとつき合うとか、彼女欲しいとか全く思
 っていなかったし家族の言う事だ、きっと大げさに言っているだけ
 だと気にもしていなかった。
 しかし、
高一の時バレンタイン当日実にショックな事を、同じクラ
 スの女生徒の一人に言われた。

「有樹君には縁の無い行事じゃない? だってこの学校の中で一
番可愛いから誰もチョコ上げようって気にならないんじゃないかな。
あ、でも男子なんか有樹君からのチョコ狙ってるんじゃないかな〜」

どうして僕が男子にチョコを・・・・・・
もしかして、家族が言っていた事って本当のこと・・・・・?

 背筋に寒気が走った。
 しかし今まで男から言い寄られた事はないから、冗談なのかも知
 れないという事にしておいた。
 その後、学年が変わりゴールデンウイークが近づいたこの日まで
 は、何事もなかったのだが・・・・・・

 
 初めて貰ったラブレター。
 興味は無くても好かれる事は嬉しい。
 それに、これで男ではなく、女の子から恋愛対象として見て貰え
 ているのだと安堵したのに・・・・・
 放課後、指定された場所に時間より早く来てみた。
 まだ相手は来ていなかった。
 青々とした葉を付けた樹を眺めていると声を掛けられたのだ。
 男の声で。

「悪い、待ったか? マジで来るとは思わなかった」

 ニヤニヤ笑いながら近づいて来る男子生徒。
 体格良く着崩した制服がだらしない。
  
「あの・・・・・」

 戸惑いを隠せない。
 
「手紙見たな」

「はい」

「じゃあ話しは早い。 俺とつき合え」

「はい?」

 意味が分からない。
 自分の貰った手紙には、可愛い丸文字で「放課後体育館の裏」
 と書いてあり、封筒の裏の差出人は『本庄すなお』の文字。
 『すなお』というより『岩男』という顔。
 すっかり女の子からだと思っていた為に、頭が着いていかなかっ
 たのだ。

「決まり」

 おっとりしている有樹でも、さすがに流されてはいけない事に気
 付く。

「困ります。 僕はあなたとお付き合いする気はありません、ごめ
んなさい」

 なるべく丁寧に言い、お辞儀をして断った。
 相手は当然そんな事くらいでは引き下がる筈もなく、有樹に詰め
 寄る。
 間合いをとろうと後ろに下がるが、尚も詰め寄ってくる。
 終いには体育館の壁の当たり、後ろへ下がる事も出来なくなっ
 た。
 こんな事になると分かっていたら、手紙を貰った時点で友人達に
 それを見せ、一緒に来て貰ったのだが。
 今更思っても後の祭り。

「良いだろ、別に。 つき合ってる奴いないんだろ」

「いえ、そう言う問題じゃないんです。 僕は・・・・・」

 続きを言おうとしたのだが、相手の顔が急に近づいて来たため
 に切れる。
 と同時に顔を背ける。

「止めてください!」

 口調を荒げる。
 相手が有樹の顔の両脇に手をついている為に逃げる事もま
 まならない。
 誰かに助けを求めたくても、聞こえるか・・・・・
 こんな事でファーストキスを奪われたくない。
 やはり、初めては女の子と嫌、初めてじゃなくても女の子とのキ
 スがいい。
 しかし、体格から考えても力で敵う事はないし・・・・・
 又しても顔が近づいてくる。

もう駄目だ・・・・・・

 ギュッと目を瞑った。


「イテー!」

 耳元での突然の大きな叫び声に、閉じた目を更に強く閉じ、肩
 を竦めた。

「テメッ、何すんだ!」

 叫び声が離れた為に、閉じていた目をゆっくりと開ける。
 目の前にいた『岩男』いや『すなお』が腕を押さえ、地面に蹲って
 いた。

「あの・・・・・」

 あまりにも痛そうだった為に、襲われていた事も忘れ声を掛けて
 しまう。

「襲われたのに呑気だな」

 聞き覚えのない声のした方に目を向ける。
 背は高く、肩幅は広く、胸板が厚い落ち着いた感じのかなり格好
 いい。

 声と同様、全く知らない男子生徒が立っていた。
 
「葛城!」

 本庄が叫ぶ。
 どうやら知り合いらしい。
 
「お前、先輩に向かって何しやがる!」

「人の物に手を出す方が悪いんですよ」

「どういう事だ!」

 顔を真っ赤にし興奮している本庄とは対照的に落ち着き払った
 態度
 有樹を差し置いて話しが進んで行く。
 
「有樹は俺の物だから手を出すなと言っているんです。 分かりま
せんか?」

 葛城と呼ばれた男は有樹の腕を取り、自分の腕の中に囲い込
 む。
 突然の力強い包容。
 広く逞しい胸に酷く動揺してしまう。
 しかし、『俺の物』とは一体どういう事なのだろうか。
 身に覚えのない人物だが、何処かで合った事があるのかも。
 ただ自分が忘れているだけなのかと、一生懸命思い出すがやま
 はり記憶にない。
 本人に聞くのが一番。

「ねえ、君・・・・」

「有樹は黙ってろ」

 強い口調で言われ一瞬怯む。
 しかし、身も知らないこの葛城という男に何故呼び捨てにされ、
 命令されなくてはいけないのか。
 普段は多に怒る事はないが、これにはさすがにムッとなる。

「離してくれない? 大体どうして君にそんな事言われなくちゃいけ
ないの。 関係ないじゃないか」

 離れようと暴れてみるが、如何せん体格か全く違う為に体が左
 右に少し動く程度。
 同じ男なのに余りにも情けなく、腹立たしい。
 葛城を下から睨み付けた。
 そんな有樹を楽しげに見る。
 二人のやり取りにすっかり蚊帳の外になっていた本庄が我に返
 る。

「葛城、てめえ後から来て出しゃばってんじゃねえよ! 嫌がって
んだろ離せよ」

 本庄は自分の事を棚に上げ、葛城を怒鳴りつけた。
 怒鳴られた葛城の方は、全く気にせず涼しげな顔。

「それは恥ずかしがってるの間違いですよ。 有樹照れなくていい
から何時もと同じ様に彰って呼べよ」

 「呼べよ」と言われても呼んだ事など全くないのだから呼べる筈
 などない。
 どうしてここまで有樹の事を無視できるのか。
 呆れてしまう。
 見ると本庄も口を開け、葛城を見ていた。

「お前、そんなキャラだったか・・・・・?」

 本庄から見た葛城という男は一体どんな人物だったのだろう。
 葛城を見るが不敵に微笑み、有樹の頭に自分の顎を乗せ見せ
 つける。

「さあ?」

 少し馬鹿にした言い方。
 本庄の怒りが再燃する。

「お前チョットばかし俺より強いからって、いい気になってんなよ。
前から気に入らなかったんだよ! 顔が良くて女にチヤホヤされ
て。 お前なら男の岬じゃなくたって女がいくらでも寄ってくんだ
ろ!」

「生憎、女には興味ないんで」

「お前ホモか!」

「残念ながら違いますね。 有樹限定」

 そう言って有樹の頭にキスをする。
 暴れる事を止め大人しく抱きしめられている有樹。
 諦めていた。
 会話に内容に耳が拒否。

どうして僕はここにいるんだろう・・・・・
どうして急に男にモテ始めてしまったの?

 大人くされるがままの有樹に、葛城は段々大胆になって行く。
 頭から序々にキスを移動させて行く。
 おでこ、瞼、目尻、頬、鼻。 そして最後に唇へ。
 軽く触れたと思ったら、直ぐに深く。
 角度を変え、何度も何度も。
 有樹は男にキスをされた事にショックを受けていた。

もしかしなくてもキスされてる・・・・・・・
ファーストキスなのに・・・・・
好きな女の子と初めてのデートで、公園でキスする予定だったの
に、何で学校で、しかも男にキス・・・・・・

 すると緩んでいた唇の間から、熱く蠢く物が入って来た。

今度は何!

 始めそれが葛城の舌だとは気付かなかった。
 自分の舌に絡められ、口腔内を舐め尽くされる。
 一旦唇を離し、お互いの唾液で濡れた有樹の唇を舐め、それが
 舌だという事を知らしめる。
 そしてもう一度有樹にキスを。
 ここまでされ漸く気付いた有樹。

嫌、なんで・・・・・

 動揺し始めた有樹を落ち着けようと、腰に回していた片腕を頭
 に持って行きゆっくりと繰り返し撫で。
 激しいキスとは裏腹に、手の動きはとても優しかった。
 抵抗していた有樹の動きも止み、すっかり身体を委ねていた。

あ・・・・・気持ちいいかも・・・・・・

 どの位キスをしているのか分からない。
 始めはされるがままだったのに、頭を撫でられ気持ち良くなった
 事で知らず自分からも舌を絡め夢中になっていた・・・・・

 そんな有樹を我に返したのは、すっかり忘れられていた本庄。

「お前ら、俺が居るのを忘れてるだろう!」

 有樹の身体がビクリとなり、唇が離れる。
 しかし、キスと包容ですっかり力の抜けていた身体は、葛城に委
 ねられたまま。
 
「なんだ、まだ居たんですか。 無粋な」

「くそ〜」

「見て分からないですかね」

 本庄が有樹に目を向けると、気持ちよさそうに目を閉じ、葛城の
 胸に頬をすり寄せていた。
 上気した頬で艶めかしく、見るからに幸せそうな姿。
 やはり葛城の言うとおり、有樹は葛城の物だという事なのだろ
 う。
 力では絶対に敵わない事を知っているだけに、本庄も不本意だ
 が諦める事に。

「・・・・・分かった」

 最後に未練がましく有樹を見、その場を後にした。
 本庄が立ち去った後、葛城は有樹に目を向けた。

 
 有樹は覚えていないだろう。
 入学式当日、桜が満開だった。
 初めて校門を潜った時何気なく目を向けた先、満開の桜の木の
 下で立っていた有樹に目を惹かれた。
 近づいて自分に気が付いた有樹。
 大きな目、真っ白な肌、ほんのりピンク色の頬にふっくら艶やか
 な唇。
 自分が見た中で誰よりも可愛いと思った。
 自分と同じ男子学生の制服でなければ、女と間違えたくらい。
 いや、同じ制服を着ていても、シャレで男装しているのかと。
 
『綺麗だよね』

 と言って笑った顔がとても綺麗だった。

『そうですね』

 その笑顔に対しての言葉だったのに・・・・

『この時期の、この瞬間の綺麗を忘れない様に焼き付けておくん
だ。 落ち込んだ時は目を閉じて思い出せば気持ちが少し楽にな
るでしょ」

 そう言ってまた桜を見ていた。
 もっと一緒に居たかった。
 その思いが何なのか分からなかったが。
 式の時間が近づいていたためにその場を後にした。
 自分より年上だと気付いたのは入学式典の時。
 自分の近くにいた、同じ新入生の誰かがヒソヒソと『なあ、スゲー
 美人と可愛い子がいるぜ』話していた。
 何となくその視線の先を見ると、式が始まる前に合った桜の木
 の下に居た人物。
 その二人と、他数名は新入生とは別、教師達の横に一緒に並ん
 でいた。
 
上級生だったのか・・・・・

『なあ、でも二人共俺らと一緒の制服じゃないか?』

『げっ、マジかよ〜。 そこら辺の女なんかよりスゲ〜イケてんの
に!?』

 確かに隣にいる人物もかなりな美形だった。
 しかし、とても冷たい顔。
 雰囲気も周りを寄せ付けない感じのもの。
 やはり自分は、その隣にいる可愛く、優しい雰囲気の桜の人物
 の方が気に入っていた。

 入学式以降直接話し事は無かったが、いつも目はその人物を捜
 していた。
 名前は直ぐに分かった。
 『岬有樹』だと。
 入学式の時横に居たのは『久我山綾瀬』
 どちらも有名で、白鳳学園のアイドルと言われていた。
 女子を差し置いて。
 
 有名なだけに自分から調べなくても、周りから色々な情報が入っ
 てくる。
 仲の良い友人が3名で『久我山綾瀬』『戸田若菜』『高津珊瑚』
 姉が二人の、5人家族。
 成績も常に上位。
 つき合っている人物は無し。
 変な虫が付かない様に、『久我山』『高津』の両名が常に目を光
 らせているらしい。
 特に『久我山』は有段者らしく隙を見せない。
 それに国内屈指「久我山グループ」の三男。
 下手に目を付けられてはいけないと、皆遠くから見ているだけ。
 自分も取り合えず目で追っているだけだった。
 それが今日変わった。

 放課後教室の窓から何気なく外を見ていた。
 体育館へ続く渡り廊下を歩く有樹を見つけた。
 試験前で部活は禁止。
 誰も居ない筈の体育館に、何の用なのか思っていた。
 有樹から遅れる事数分、別の男子生徒が体育館へと歩いて言
 った。
 同じ空手部所属。
 3年の本庄だった。
 あまり強くもなく、先輩風をふかし後輩に嫌われていた。
 ある日、久我山が放課後、部活をしている時に有樹と戸田と連
 れ体育館へ来た。
 その時、本庄が「久我山は美人だけどキツイから、俺は岬がい
 いな。
 「あれだけ可愛けりゃ男でもオッケーだよな」と言っていた事を思
 い出したのだ。
 まさかとは思ったが、胸騒ぎが収まらず教室を飛び出し、全速
 力で体育館へ向かった。

 体育館は鍵が掛かっていて開かない。
 
何処だ!

 裏に回り込もうとした時に「やめて下さい!」という叫び声。
 角を曲がると、壁に押しつけられ逃げられない様、腕で囲わ
 れた有樹の姿が。 
 近づけられる顔に必死に反らしていた。

それは俺の物だ!

 気持ちが一気に沸き上がった。
 駆け寄り本庄の腕を捻り上げた。
 折角助けてやったのに、自分を見ようともせず有樹の事を襲っ
 ていた本庄に心配そうに「あの・・・・・」などと声など掛けて。
 つい腹立たしく「襲われたのに呑気だな」と嫌みを言ってしまっ
 た。
 その後は有樹を抱きしめ、本庄がいる事などお構いなしに有樹
 の唇を奪ってしまった。
 本当はこんな事をするつもりではなかったのだが、抱きしめた瞬
 間の有樹の体温と香りが、葛城をそうさせてしまったのだ。
 
 途中抵抗して来たが、腰に回していた片腕を頭に持って行き、
 ゆっくり丁寧に何度も何度も撫でてやっている内に、身体から力
 も抜けその内有樹からも舌を絡めるように。
 後は夢中で有樹を貪った。
 柔らかい唇に、熱い口腔。
 甘い吐息に、今までの誰よりも夢中になった。
 
誰にも渡さない!

 葛城の全身が、有樹を好きだと感じていた。
 だからあれ程気になっていたのだと。
 自分の気持ちに気付いた瞬間、有樹を手に入れる事だけを考
 えた。
 絶対の自信を持って。



 キスが終わった後の有樹はすっかり力が抜けていたため、葛城
 が家まで送って行く事に。
 キスの後の有樹は目は潤み、顔は上気し、色っぽく艶を放って
 いる為一人で帰すのは心配。
 それに、葛城自身が離れたくなかったのだ。
 無事に有樹を家まで送り、次の日からは家まで迎えに行った。
 家から出て来た有樹は驚き、顔を真っ赤に。
 とても可愛かった。
 ちょっと怒った様な顔で、葛城の脇を通り抜け先に歩き始めた。
 その態度に苦笑し、有樹の後を追いかけ、並んで一緒に登校。
 最後まで口をきかなかった。
 このツーショットには誰もが驚いていた。
 下駄箱で一緒になった久我山は鋭い目で葛城の事を見ていた
 が。
 休み時間や、昼休みの時も顔を出すように。
 部活の無いときは放課後有樹を迎えに行き、一緒に帰った。
 そしてそれが当たり前の風景に。
 最初は有樹も口を必要最低限しかきかなかったが、序々に笑い
 話す様に。
 久我山は特に口出しはして来ず、黙って葛城を見ていた。

取り合えず排除される事はないか・・・

 出来るだけ有樹に優しく接した。
 他の者へでは、まず考えられないだろう。
 有樹限定なのだ。
 
 キスも自然とする様になった。
 最初は怒っていたが、不意打ちに何度もキスをしていたお陰で
 最近は文句を言わなくなった。
 軽かったキスも今では濃厚なものへ。
 甘える様にもなってくれた。
 後少しで有樹は完全に自分の物だ。
 横に並び歩いている有樹を見てほくそ笑んだ。





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