暖かな光
(7)

5万をGetされたりんりん様より
「本当の気持ち」貴章の一人称で自分の過去、どうして血も涙も無いよーな
(若菜以外には)性格になってしまったのか。
ベッドで若菜と熱い夜を過ごした後、疲れて眠ってしまった若菜を横に。





「・・・・・言いたい事はそれだけですか」

 叔父との思い出は捨て去った。
 ここにいるのは、私に、そして久我山、神崎に対しての敵。
 
「何を!」

 今までにない私の冷酷な態度に怯みながらも、叔父は強気
 な態度でいる。
 その手に銃が握られているからだろうが、私は恐ろしくない。
 寧ろ気持ちは凪いでいた。

「経営に才能がない事を他人のせいにしないで欲しい。 向いて
いないと思うのなら素直に辞任すればよかったのに。 そうすれ
ばそこまで落ちる事もなく平和に生きていけたものを・・・・・」

「貴章?」

 急に私の気配が変わり、父が、周りが訝しんでいる。
 こんな愚かな人間は久我山には必要ない。
 この叔父がいる限り、私の周りにいる者が危険に曝されてし
 まう。
 叔父がいなくなったとしても、私が心許した者が危険な目に合
 うのはもうたくさん。
 信頼していた者に裏切られるのも、もうたくさんだ・・・
 もう誰も私の中に入って来るな!
 
「私がいなくなる前に、無能なあなたがいなくなるべきだ」

 ただならぬ気配に拳銃を構えるが、何の武芸も嗜んでいな叔
 父の動きなど止まって見える。
 そして今の私には恐怖はない。
 そのため向かって行く事も躊躇いもない。
 一気に間合いを詰め、その手から銃を叩き落とす。
 
 そのまま腕を叩き折り、腹部に膝を打ち込む。
 鈍い音がしたから肋骨も折れているだろう。
 両手を合わせ、前屈みになった背中にそれを打ち込む。
 倒れ込んだ背中に乗り、後は首を捻るだけ。
 それで終わる。

「待て!」

 頭に手を掛けた時、神崎氏の鋭い声に止められた。

「・・・・なぜ、止めるんですか」

 叔父は気を失っているのか、微動だしない。
 叔父の後頭部を見つめたまま、神崎氏に問う。
 生かしていても仕方ないのに何故止める。

「君がする事ではない」

「なぜ? 身内の事は身内が片を付ける。 それは神崎さん、あな
た方も同じでしょう」

 まただ、自分の口から出ている言葉なのに他人が話している
 ように聞こえる。
 
「確かに私達の世界ではそうだ。 しかし君は違うだろう」

「何が違うんでしょう・・・。 ヤクザと一般人の違いですか?」

「そうだ」

 私の肩に神崎氏の手が掛かる。
 咄嗟にその手を払いのけ神崎氏に対峙した。
 そんな私の行動に周りが気色ばむ。
 神崎氏は彼等を手で制す。

「それに、私は君の手を汚したくはない」

 静かに、私に語りかけるが、汚すも何も、もう私の手は血に染
 まってしまっている。
 そう健二さんを撃った時点で。
 今更何が変わるのか。
 私はこの騒動の元凶で、私の大切な人達を傷つけた叔父をこ
 の手で始末したかった。 
 だが、神崎氏の手の者によって私達は引き離され、叔父はそ
 の場から連れ去られて行く。

「待てっ!」

 その後を追おうとしたが、止められた。

「このっ!」

 神崎氏に向かってその拳を、足を叩き付ける。
 だが悉くかわされ、一つも当たらない。

「落ち着くんだ」

「くそっ!」

 狩野さん達に習い、力もスピードも格段に上がった筈なのに
 当たらないなんて。

「おにいちゃっ!」

 遠くから聞こえて来る幼い声に私は動きを止めた。
 母に止められながらも、必死で私の元へと走って来る小さな
 綾瀬の姿を見た途端、私の中から力が抜け、その場に立ちつ
 くす。
 その後ろには浩人の姿も。
 今の出来事を見ていたのか、その顔は蒼白で私を見る目には
 恐怖が見てとれた。
 当然だろう。
 躊躇いもなく叔父の骨を折り、床に沈め、あまつさえ命を奪お
 うとしたのだから。

 見ると父も顔面蒼白で、私の事を信じられないという目で見て
 いた。
 やはり私は異質なのだ。

 足に纏わり付く綾瀬をそっと引き離し、父の手に渡す。
 必死に手を伸ばし、私の元へ来ようとしたが知らぬふりをした。
 急に突き放した態度に綾瀬は涙ぐみ「にいちゃ」と呼ぶが、私に
 は近づかない方がいい。
 両親にもそう話した。
 あからさまにホッとした顔をされてしまった。
 私の居場所が失われた事は寂しいと思ったが、同時に解放
 された気持ちにもなった。

 父は弟である叔父を心配したが、いつまた同じ事があるかも知
 れないし、今度はその標的を綾瀬にされたらと苦渋の決断で神
 崎氏に託した。

 叔父がいなくなった後の処理をしなくてはならない。
 任せていた会社は私の手にゆだねられる事となったが、私は
 まだ高校生なため、何かある時には父が表に立った。
 
 今回の事件の首謀者であった仁科は、清風会の手によって
 始末を付けられたと聞く。
 仁科組も潰されたと。
 叔父についても、何も聞かされてはいないが、既にこの世には
 いないものと思っている。
 仁科の手によって人生を踏み外してしまったのだから、ある
 意味被害者なのだろうが、しかし叔父は健二さんとは違い自
 分の意思で闇に落ちて行ったのだ。
 同情する気にはならない。
 
 そして騒ぎの直後、狩野さんの長かったオペが終わり、命だ
 けは取り留めた。
 たった一度だけ目を開けたが、その後は目を覚ます事なく今
 も眠り続けている。
 いつかその目が開かれる事を信じ、彼は神崎家の一室で眠り
 続けている。
 だが殆どの者はそれを知らない。

 あれから一度も会いに行ってはいないが、気持ちに整理が出
 来た今ならあなたに会える。

 そして健二さんは・・・・・



「・・・・貴章さん、どうしたの?」

 寝ていたはずの若菜が不安げに見つめる。
 抱きしめていた手に力が入ってしまったようだ。

「すまない、起こしてしまったな・・・・」

「・・・・・泣かないで」
  
 優しい手がそっと私の頬に触れた涙を拭う。
 濡れた感触に、初めて泣いている事に気付いた。
 若菜を付き合い始めて、私の中で凍っていた感情が溶け出し
 ているようだ。
 
「悲しい事があったら一人で悲しまないで。 何も出来ないけれど
あなたを抱きしめる事は出来るから。 もし側にいないなら電話し
て。 夜中でも遠く離れていても直ぐに飛んで行くから」

「若菜・・・・」

 若菜にそっと頭を抱きかかえられる。
 何気ない仕種が、言葉が私を揺さぶる。
 優しい若菜。

 しなやかな体を抱きしめる。
 優しい手。
 暖かく光り輝く若菜。
 その光に何度心を救われた事だろう。
 
 この優しく暖かな手の為なら私はこの命を差し出そう。
 何があっても若菜だけは守ってみせる。
 子供だった私はもういない。

「若菜・・・・・。 今度の休みの時に一緒に行って欲しい所があ
る・・・・」

 若菜とならば一緒に行ける。
 


 数日後、狩野さんと和磨の見舞いに行った私に、その場にいた
 神崎氏が教えてくれた。
 健二さんも出血は酷かったが、命を取り留めたと。
 薬の影響で、一時心肺停止状態になったが、なんとか蘇生し
 持ち直したらしい。
 傷が落ち着いた所で、別な病院に移ったと聞いた。
 薬を使用していた者が入院する施設に。
 一年かけて落ち着いたという。

 会いに行きたいと思ったが、神崎氏は決してその場所を教え
 てはくれなかった。

 麻酔から目が覚めた和磨は一連の事件の内容を聞き衝撃を
 受けていた。
 それに薬のせいだとはいえ、健二さんに撃たれた事が相当シ
 ョックだったようだ。
 それでも健二さんに会いたくて、行方を聞いたが決して教えて貰
 えなかったと。
 生きているのなら、いつかまた会える。
 私達はそう信じていた。
 生きていてくれて本当に良かったと思っていた。

 なのに・・・・・


「これを・・・・、渡された」

 うつろな目をして現れた和磨から手渡された手紙。
 神崎氏を通して送られた健二さんからの手紙だった。
 そこには、薬を打たれていたからとはいえ、私達に銃を向けて
 しまった事に対しての謝罪が書かれていた。 
 確かに憎いとも思ったが、和磨の事は本当に息子のように思い
 愛していたと。
 そして私の事も、とても大切に思っていたと。

 そして最後に『これからも和磨の支えになって欲しい』と書かれ
 ていた。

 手紙を持つ手が震えた。
 まさか・・・・

「・・・一瞬だったらしい。 その日は天気も良くて、健二さんが屋
上に行きたいと言い出したそうだ。 殆ど薬の影響はなくなり、お
かしな発言、行動もなかったから屋上に行く許可が出て・・・。 真
っ青な空で『空が気持ちいいね』と空を見上げ、一緒にいた看護
士がつられて空を見上げた時に・・・・」

 手紙を握りしめた。
 なぜ、どうして生きてくれなかった!
 どうして自ら命を!

 和磨と二人、一生分の涙を流した。
 私とっても大切だった人。
 だが、和磨はそれ以上。
 狩野さんは生きてはいるが、その目は覚ます事はない。
 二人同時に大切な人を亡くしてしまった心の痛み、喪失感は
 計り知れない。
 そして私達二人、共に心を失ってしまった。

 だが、今二人共感情を取り戻した。
 それぞれが、得難い半身を見つけて。
 暖かな光と、優しさに溢れる場所を手に入れた。

 ・・・・もう大丈夫。
 若菜と一緒なら行ける。
 今度の休み、健二さんの眠る場所へ。



 久しぶりに・・・・
 あなたに会いに行きます





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