新しい日々
(4)

キリ番39000をGetされた、みかん様より
「お試しください」







 裏の職員用通用口から渡されている鍵を使って入ると人の気
 配が。
 横田が先に来ているようだ。

 着替えて診察室を覗くと横田がいた。

「おはようございます・・・・」

 一ノ瀬の冷たい態度に、ほんの少しではあるがショックを受け
 た素。
 自分では気が付いていないが、横田への朝の挨拶がいつもよ
 り力がない。

 そんな素を見て「おや?」と思ったが口にはせず、変わらぬ口
 調で挨拶を返す。
 
「お早う佐倉君。 体は大丈夫なのかい。 無理しなくても良かっ
たのに」

 余計な一言に、売られた事を思い出した素。

 一ノ瀬と友達なのが許せない。
 強引・自己中・俺様な一ノ瀬。
 綺麗で優しく穏やかな横田。
 どこをどうやっても繋がらないだろう。

 しかし、今回の事で横田の別な面を知る事が出来た。

 物に弱い!

 貴重な医学書をやると言われただけで、あっさりと素の事を差
 し出したのだ。
 確かにその本を読む事によって、横田に知識は得られるだろ
 う。
 だが、その事で大事な部下を無くしかねないのではないか?
 部下が助けを求めたらそれに応えるのも上司ではないのか?

それなのに「明日休みにしておくから」って・・・・・
それでいいのか?
いかんだろう!

 怒り再燃。

「酷いじゃないですか! どうして止めてくれなかったんですか
? おかげでエライ目にあったじゃないですか!」

 しかし横田は軽く流した。

「佐倉君のお陰で、前から欲しかった本が手に入ったよ。 本屋
にも売ってなくってね〜。 ネットとかでも探したんだけどどうして
もなくって。 一ノ瀬が持っていたとは、灯台もと暗しだね。 ホン
ト有難う」

 お辞儀されてしまった。

「いえいえ、どういたしまして・・・・・って、違います! どうしてあ
んな危険人物と友達なんですか!」

 横田はキョトンとした顔。
 見慣れない顔は可愛かった。
 美人はどんな顔をしても絵になる。

 こんなに綺麗な横田と友人なのだから、何も自分でなくてもい
 いのではないか?
 
そうだ、そうだろう!

「先生」

「なにかな?」

「先生はそんなに綺麗なんですから、先生が恋人になって下さ
い」

「えっ!?」

 横田は驚いた。
 とても驚いた。
 そして、本当に嫌そうな顔を素に向けた。

「それだけは嫌」

「どうして!」

「見た目はいい。 お金も持ってるし、表面上は優しく見える。
でも、あの性格なんだよ。 我が儘で俺様で一癖も二癖もあっ
て。 卑怯な手も使うし、人も脅すし、人使いも荒いんだよ。 誰
がそんな悪魔みたいな奴と誰が恋人にならなくちゃいけないん
だい?」

「・・・・・・・・」

 良いところが全くない。
 そんな奴と友達やってる横田も実は良い性格なのではない
 か?
 確信した素。

「じゃあ、どうして俺をそんな酷い奴に引き渡したんですか?」

「えっ?」

 『しまった』と思い切り分かる顔。
 慌てて言い訳する横田。

「・・・・一ノ瀬は良い奴だよ。 顔はいいし」

「顔だけ」

「お金もあるし」

「医者だし」

「優しいし・・・・」

「表面上?」

「素君の事を本当に愛してるんだよ」

「迷惑だ」

「・・・・・離れたくないんだよ。 一緒にいたいんだよ」

「人の迷惑顧みないで、アパート勝手に解約して同居? しかも
人を脅してこき使って?」

「・・・・・・・・・良い奴だよ・・・・」

「どこ見て言ってるんですか? ちゃんと俺の目を見て言って下
さい」

 横田の視線は素から逸れていた。
 視線が泳ぎ、心なし汗を掻いている。
 
「・・・・・そこまで褒めるなら、やっぱり先生が恋人になってやって
下さい」

「それだけは嫌。 あいつは嫌!」

 言ってる事が違うではないか。
 自分はダメで素には一ノ瀬を薦める。
 なんて理不尽な。
 納得がいかない。
 上司にも拘わらずつい白い目で見てしまう。

「・・・・・矛盾しすぎ」

「え〜っと・・・・・ ほら、一ノ瀬は佐倉君に下手惚れだから。 僕
から見ても佐倉君可愛いし。 一ノ瀬とはお似合いだよ。 それ
に僕は女性が好きだから」

 自分は女で人には男を薦めるとは・・・・
 可愛い職員がホモになってもいいのか?
 そうなったのは横田のせいなのに。
 
「要するに先生は俺にホモになれと? 自分は女の人で? そ
の顔で女好き?」

 その言葉には横田もちょっとムッとしたらしい。

「顔は関係ないと思うけど。 それに僕は女好きではありませ
ん。 男性より女性がいいんです」

「ダメですよ。 俺の事ホモにするんですから、先生もホモになっ
てもらいます」

「嫌です」

「ダメです」

 そんな不毛な会話が続いた。
 
 その会話は患者が来るまで続けられた。



 その日もいつもと変わりなく過ぎた。
 いつもと同じように人数も少なかった。

 午後からはパートの添田も出勤して来た。
 素を見る目がいつもと違うのは気のせいか?
 目がキラキラと輝いて見えるのは気のせいか?

 聞いてみたいが、恐ろしい。
 なるべく近寄らないでおこうと思った。

 離れた場所から送られて来る視線も無視した。




 そして17時5分前。

「こんにちは〜〜」

 受付から聞こえて来る、添田の黄色い声。
 見ると一ノ瀬が。

 朝の事を思い出し不機嫌になる素。

無視だ無視!

 一ノ瀬に背を向けてコンタクトの在庫を調べる。

 不機嫌な素に気付いている筈。
 しかし一ノ瀬は気にせず、朝の出来事などすっかり忘れたか
 のように、素に話しかけた。

「素、迎えに来たぞ。 一緒に帰ろう」

 素は一瞬視線をむけたが、無視して在庫確認を。

「朝は俺が悪かった。 機嫌を直せ」

「・・・・・・・」

「そうだ、素は甘い物は好きか?」

 ピクッ

「美味い店があるんだ。 フルーツジュースも美味いらしい」

 ピクピクッ

 甘い物も好きだが、素はフルーツが大好き。
 特に柑橘系。
 
 一緒になど帰りたくない。
 しかし、この二日で学んだ。
 一ノ瀬は人の都合など考えず行動する事を。
 たちが悪く、物で釣ろうとする事を。
 横田はそれで釣られた。
 そして今、素の事も物で釣ろうとしている。
 しかも、それに釣られる自分。

帰りたくないのに、甘い物&フルーツの誘惑が〜


「・・・・ブラッディオレンジジュース」

「ある筈だぞ」

今回だけ負けてやるか・・・・

 この時だけと、本人は思っているらしいが、この後も素は物に
 釣られる事だろう。
 一ノ瀬は素研究に勤しむのだから。

「行く・・・・・」

 そこへ横田が。

「素を貰ってくぞ」

「挨拶もなしでいきなりそれ?」

「今更だろう」

 フーッとため息を吐く横田。
 そんな二人を見て、一ノ瀬にも朝の話をしてみた。

「ねえ、なんで先生じゃないの?」

「なんの話だ?」

「俺なんかより、聡先生の方が断然綺麗だと思うんだけど、どう
して聡先生じゃないの?」

 素の言った意味が分かった一ノ瀬。
 さも嫌そうな顔。

「何故おれが、こいつと・・・・・ 冗談じゃない。 いいか、素。 こ
いつはこんな顔して真面目そうに見えるがかなりな奴だぞ。 口
は悪い、暴力的だわ。 騙されるな」

 それは誰の事?
 一ノ瀬なら分かるが横田が?
 真面目で温厚で優しい横田が暴力的とは信じられない。

 反論せずに笑っているのがなお恐い。

「やだな〜 どれも正当防衛だよ。 みんなこの顔に騙されて人
の事押し倒そうとするのが悪いんじゃないか」

 人間不信になりそうだ。
 
「そういう事にしておこう。 さ、素行くぞ」

 一ノ瀬に肩を抱かれ、大人しく職場を後にした。
 気が付いた時には既に車の中で移動していた。

 素は看護服のまま。
 荷物も置きっぱなし。
 なにより後かたづけもしていない事に気付いた。
 
 一ノ瀬に戻るように言うが「横田が片付ける」と勝手な事を言
 い戻ってはくれなかった。
 途中服を買い、フルーツパーラーへ。
 男二人、一人は可愛く、一人は男前。
 そんな二人はとても浮いていたが、本人達は気にしていなか
 った。
 
 素はフルーツにケーキ、フレッシュジュースに夢中。
 一ノ瀬はコーヒーを飲みながら、幸せそうに食べる素に夢中。

 何だかよく分からない一ノ瀬との始まりだが、美味しい思いが
 出来るならこれはこれでいいかもと、思い始めている素だっ
 た。

 そんな素の気持ちが分かるのか、兎に角餌付けに限ると思い
 実行する一ノ瀬だった。




 新しく始まった二人の生活。
 お互いの気持ちはまだ遠いが、取り合えず上手く行きそうな
 気配と予感。
 
 なんといっても、一ノ瀬は素に夢中なのは間違いのない事だ。
 




 
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