貴章の気持ち

1万Hits企画









 自分の横に眠る愛しい存在。 
 久しぶりに逢い触れ合った為に、歯止めがきかなく若菜に無理をさせ
 てしまった。
 顔には涙の跡が。
 愛おしげに髪を撫でる。

 若菜には出来るだけ毎日顔を見せる様にしている。
 だが自分には、会社のトップという責任がある。
 日本に居ない時も多々ある。

 そんな時逢えないのが辛い。
 初めて若菜と気持ちが繋がった時、最初の一週間逢うことが出来なか
 った。
 若菜と週末を過ごすために、出来るだけ仕事を詰めたのだ。
 携帯で顔を見て話すことは出来ても、触れ合えない辛さ。
 若菜はいつも微笑んで「身体に気を付けて」と言って自分の事を気遣
 ってくれていた。
 週末、若菜には自分が一緒だという事を秘密にさせ旅行に誘うよう、綾
 瀬に言っておいた。
 綾瀬から、「了解が取れた」と連絡があり、一安心。
 当日若菜はもの凄く驚き、喜んでくれた。
 しかし「寂しかった」と言われ後悔した。
 こんなに自分も若菜も辛い思いをするのなら、例え5分でも逢ってい
 ればと・・・・
 それからは、例え数分だけでも逢う様にしている。

 誰かを愛し、誰にも見せたり触れさせたくない。
 前回の温泉旅行の時、若菜の事を見た目で判断し、『ブサイク』呼ば
 わりした、女達には殺意を覚えたが、悠二に抱きついた若菜を見た瞬
 間に切れていた。
 こんなにも自分は独占欲が強く、嫉妬深いなんて思わなかった。

そう若菜に出会うまで・・・・・・・

 若菜に出会ったのは、新宿2丁目のバーだった。
 連日の仕事に疲れ、一人ゆっくり飲み、溜まった欲望を吐き出すため
 だけの一晩の相手が居ればと思い、行きつけの店に行ったのだ。

 恋人は居ないし、欲しいとも思わない。
 ただ自分の欲求を吐き出せればいいのだ。
 しかし、女は面倒だった。 
 顔・地位・金で女達は寄って来る。
 何とか貴章を手に入れようと鬱陶しいくらい。
 「一度だけ、遊びでいいから」と言われ寝ても、後からゴチャゴチャと言
 い、挙げ句に「子供」が出来たとまで。

 子供が出来るなんて事はあり得ない。
 相手する時は必ず避妊しているのだから。
 もし、女が妊娠していても自分の子供ではない事は、分かり切ってい
 る。
 親が乗り込んできても冷たくあしらい、探偵に調査させたレポートを突き
 付け二度と近づかない様に言い渡す。
 ただし、大抵の場合は、自分を不快にさせたという事で、それなり
 の罪は償って貰った。

 親が会社役員だった場合、特に貴章の会社と取引が合ったりした場
 合には、こちに有利な取引をさせた。
 取引が無かった場合は別の形で。
 逆らった場合の今後の事を臭わせて。
 利益があるのはいいが、面倒くさかった。

 その点男は、そういう事を言わないし妊娠もしない。
 身体だけ満足させたい場合は、そういう店に行けばいい。
 一晩だけの相手で身体だけの関係。
 自分にはそれが合っていると思った。

 その日もそのつもりで店に入ったのだ。
 入ってみると、何時もと店の雰囲気が違っていた。
 誰もがある一点を見て、そわそわ落ち着かない。
 気になりその視線の先を見ると・・・・・
 己の中の時が止まる。
 回りの音も聞えない。
 只一点視線が釘付けに。

 カウンターに座る若い男。
 初めて見る顔。
 見たことのない美貌の持ち主。
 照明のせいなのか、それともアルコールのせいなのか、顔がほんのり
 桜色に染まり、潤んだ目が妖艶で途轍もない色気を放っていた。
 だが何処かあどけなさも。
 暫く動くことが出来ずその場で立ちすくんでいた。

 すると一人の男が、その若い男に声をかけに行った。
 途端自分の中で時が動き始めた。
 
その男は私の物だ!

 凄まじい怒りが、わき起こる。
 若い男は、今まで放っていた色気を潜め、声を掛けた男に何か言い
 微笑んだ。
 とても無邪気な笑顔。
 その笑顔に衝撃を覚えた。
 怒りがスーっと治まり貴章まで微笑んでいた。
 心を癒す優しい笑顔。
 そんな笑顔に、男は断られ引き下がって行く。

 他の何人かも既に断られた後らしい。
 たった今断られた男に向かって「お前でもダメだったか」と言う声が聞え
 た。
 帰るのか、若い男が立ち上がろうとする。
 大分飲んだのか少し足下がおぼつかない。
 身体がゆっくり傾く。

危ない!
 
 そう思った時には身体が先に動き、若い男を後ろから支えていた。 

「大丈夫か?」

 声をかけると、一瞬身体が強張ったが直ぐに治まり、「有難うございま
 す」とお礼を言われた。
 澄んだ優しい声。
 振り返り自分を見詰める瞳。
 その瞳も声と同じ様に澄んでとても綺麗だ。
 目だけではない、近くから見るその顔はとても綺麗だった。
 その綺麗な顔でニッコリと微笑まれる。
 とても幼く庇護欲をそそる。

さっきまでとは全く違うな・・・・

 苦笑していると、手を延ばし貴章の頬の触れて来た。

「どうした?」

 声を掛ける。
 自分がこんなに優しい声を出せるとは。
 若い男が突然抱きつき

「好き〜〜」

 と甘えて来た。 
 とても驚いたが、その言葉が心からの物に聞えた。
 他の人間にされたなら、その場で突き放していただろうが、この男には
 許せた。
 賺さす抱き上げ会計をし、他の男達の嫉妬と羨望を受けながら店を
 出た。

 車に乗せ、自分の住むマンションへ向かう。
 車を玄関に着け、横抱きにし中へ入る。
 入り口の警備員が貴章に挨拶をし、腕の中にいる若菜を見て驚く。
 そんな警備員の前を過ぎフロントへ。
 必ずそこには人がいる。
 鍵を渡し、車を駐車場に入れるよう言いその場を後にする。
 フロント係も腕の中で夢の中に行きそうな若菜を見て驚き、その美貌
 に顔を真っ赤にしていた。

 最上階にある自分の部屋には、だれも連れ来たことはない。
 唯一、弟の綾瀬だけが訪れた事がある。
 寝室のドアを開け、シーツの上にそっと置く。
 壊れてしまわないように。

 襟から除く上気した肌が艶めかしい。
 スーツを脱いでいく。
 開かれた瞳は潤み、少し開かれた唇が誘っているようだ。
 口づけた唇はとても甘く、より深く重ねた。
 怯えさせないようゆっくりと時間をかけ、身体を溶かして行った。
 しっとりと吸い付く、きめ細かい肌。
 その肌に赤い印を付けて行った。
 まだ誰も触れた事のないであろう初々しい身体。
 全てを自分に染めたい、支配したいと強く思った。

「あっ・・・やっ・・・・・・・」

 甘い喘ぎ声が耳に心地よい。
 ゆっくりと丁寧に解した蕾に自身を入れると、そこはとても狭く熱く、貴章
 に絡み付いて来た。
 苦しそう表情に「大丈夫か」と尋ねると苦しそうな顔をしていたが、懸命
 に微笑んできた。

「・・・・・だ・・・い・・じょう・・・・・・ぶ・・・・・。 すきっ・・・・・・・。」

 その言葉に煽られ一気に自身を突きこんだ。
 そして相手が気を失うまで何度もその蕾に欲望を吐き出した。



 夕方6時頃、弟の綾瀬から相談したい事がある、今もう下に来ていると
 連絡が。
 寝室で眠っている、愛しい存在の事をが頭を過ぎったが起きる気配も無
 いため、仕方なく部屋の中へ入れた。
 綾瀬は玄関にあった貴章の物ではない靴に気づき不審な顔をして
 いた。
 今まで、この家に貴章が誰かを連れて来た事がないのを知っている
 から。
 弟でさえこの部屋に来る事でさえ、あまり良く思っていないのを知っ
 ているのだから。

 話しは、綾瀬とその恋人悠二の事であった。
 『二人の関係が自分たちの両親に知られてしまい、引き離そうとして
 いるから、何とかならないか』という事だった。
 今までなら、放っておいたのだが、自分にも唯一の宝が出来た。
 その事を思うと、綾瀬達の事も少し考えてしまう。
 父親は多分、悠二の軽薄そうな外見が気に入らないのだろう。
 それでなくても、綾瀬の事となると、人が変わるのだから。
 自分の愛する妻によく似た綾瀬を溺愛していた。
 それだけに怒りは大きかったらしい。
 暫く綾瀬の話を聞いていた。
 すると、隣りの部屋で物音が。

 部屋に行き電気を点けると、上半身を起こし眩しそうに目を細めてい
 た。
 寝癖の付いた髪に、ボーッとした無防備な顔。
 ベッドに腰を下ろし髪を梳き、口づけていると急に身体が強張った。
 顔を見ると真っ青だった。
 振り返ると綾瀬が口を開け、呆然と立って見ていた。

「チィッ!」

 自分の迂闊さに苛立つ。
 綾瀬の目の前に立ち、若菜をその目から隠した。

「綾瀬、もう帰りなさい」

 ドアを閉め怯えた若菜を宥め賺し、お腹が空いているだろう若菜の為に
 食事を作ろうと部屋を後にした。
 帰れと言った綾瀬まだ居たことに怒りがわき起こる。
 自分の怒りを恐れながらも、「・・・・あの・・・、今の人は・・・・」と聞い
 て来た。

「お前には、関係ない」

 詮索を止め早く帰るよう促したのに

「一瞬しか見えなかったけど、凄く美人だった・・・・・。 恋人・・・・?」

 と聞いて来る。
 非難する口調ではなく、どちらかと言うと何だか相手に対し心配げな
 口調だったため、少し怒りも修まった。
 まだ、恋人ではないが、離すつもりはない。
 だから「そうだ」と答えた。

「名前は? 年は?」

 いつもなら直ぐ引くのに今日の綾瀬はしつこく食い下がって来た。 

なんだ?
知っているのか・・・・・

「・・・・知り合いなのか?」

 聞いてみるが特に変わった反応はない。
 だが何かおかしい。

「いや。 貴章兄さんの恋人なら、これからずっと付き合って訳だし。」

 誤魔化した言い方で、帰って行った。
 不審に思ったが、今は一日中眠っていた、若菜の胃とお腹の事を考
 え直ぐに出来、消化の良いオープンサンド・野菜スープ、絞り立ての
 オレンジジュースを作り持って行った。
 何も食べていなかったのだから仕方無いことだが、お腹が鳴り、顔を
 真っ赤にしていた。
 その姿が微笑ましい。

 その食事を自分が作ったと言った事にとても驚いていた。
 頬に手を当て、その滑らかな肌触りを楽しむ。
 そして、ふと名前を聞いていない事を気づいた。
 眠っている間に、悪いとは思ったのだが持ち物を見た。
 持ち物は財布だけ。
 中身も現金しかはいってなく、身元を確認する物が何も無かったのだ。
 携帯もなかった。

「有樹、 岬 有樹です・・・・・」

 その名前を告げられ違和感が。
 シックリ来ないのだ。
 名前と目の前にいる人物が。
 名前を告げた後何故か悲しそうに俯いてしまった。
  
 しかし、本人がそう言うのだからそうなのだろう。
 顔を上げ、頬に添えた手を両手で持ち、愛おしげに頬摺りしてきた。
 そんな可愛い仕草に煽られ口づけ、そのまま行為の及んでしまった。
 そして気を失ってしまった若菜を抱き上げ、バスルームへ行き丁寧に
 身体を清め清潔なシャツを着せベッドに横たえた。

 明日はどうしても外すことの出来ない予定が入っている。
 翌朝、熟睡している若菜を起こさない様にし、ベッド横のサイドボード
 にメモを置き、食事の用意をして仕事に出かけた。
 仕事中も若菜の事が気になり、取引先でもあり友人でもある相手に
 色々と詮索された。
 きりの良いところで仕事を切り上げて、マンションへ戻った。
 朝とは違うフロント係から、郵便物を受け取り部屋へと。
 玄関を開けるとセンサーが反応し明かりが付く。
 だが部屋の中に愛おしい者がいなかった。
 初めて絶望と喪失感を知った。
 
早く取り戻さなくては・・・・・

 知っているのは名前だけ。
 しかし、その名前が本名だとは思えなかった。
 綺麗な響きだが、雰囲気が違った。
 もう少し柔らかい響きの様な気がする。
 そして直ぐに浮かんだのは綾瀬の事。
 綾瀬の回りを調べ、その中の若菜を見つけたのだ。
 自分の知っている姿とは、全く違っていたが、その人物こそが、自分
 が求めている宝だと確信した。
 『戸田若菜』というその名前。
 柔らかい響きで、愛しい者の姿にとても良く合っている。
 綾瀬に確認を取り、その人物に間違いが無いことを確認し、実家の方
 へ連れて来ることを約束させた。
 次の日、綾瀬達が帰って来る前に実家へと赴いていた。
 二階の自分の部屋の窓から外を見ていると、タクシーが敷地内へと
 入って来た。
 部屋を出て階段を下りて行くと、綾瀬達はリビングに入っていた。
 微かに聞えて来る声は、自分が欲してやまない人物の声であった。

「・・・・・・・・・・・。 どうして、好きなんだろう兄さんの事」

「・・・・・・・凄く好き・・・・。 でも綾瀬のお兄さんだから・・・・・・・・」

「俺の?」
 
「だって、綾瀬は大切な友達だから、僕なんかとお兄さんが付き合うな
んて出来ないよ・・・・・ひっく・・・・・」

なんという事だ!

 若菜は綾瀬との友情の為に自分から姿を消したと知りショックを受け
 た。
 若菜は自分の事を知っていた。
 最初の日は「見たことのある人」だと分かったらしいが酔っていたので
 ハッキリと思い出せなかったらしい。
 次の日になり自分が綾瀬の兄であることに気が付いたと。

 そして何故か自分に対し相応しくないと思いこみ、二度と会う事がない
 よう偽名まで使うとは。

相応しいかそうでないかは、私が決める事
若菜の存在が如何に私に取り癒しで、大切な者かハッキリと告げなくて
は・・・・・・

 そう思った時には身体が動いていた。
 後ろから近づき、若菜をしっかりと抱きしめていた。
 突然現われ、抱きしめ自分にとても驚いていたが、会えた事をとても
 喜んでくれた。
 メガネを外した、涙に濡れた顔は自分が愛してやまない者の顔だった。
 再会した後、若菜の事をどんなに愛し、大切か言い聞かせた。
 お互いの気持ちを身体で確かめ合い、恋人になった事を実感しあう。

 若菜をこの手に取り戻す事が出来、本当に良かった。
 その時の幸福感は今も忘れない。
 今ここで眠る若菜。
 掛け替えのない自分の宝。

 若菜と一緒にいる事で、今まで自分でも知らなかった感情が次々と
 現われて来る。
 初めて知る、愛しいという気持ち。
 そして、嫉妬と執着。
 これからも様々な感情に翻弄されるに違いない。
 しかし、その感情を与えてくれるのが若菜と思うだけに、それも良い
 だろうと思う自分がいる。
 とても若菜を愛している自分を知った。
 眠っている若菜の髪を撫でながら、甘く囁いた。

「愛している・・・・・・」

 聞えてはいない筈なのに、若菜はニッコリと微笑んでいた。
 まだ、時間はある。
 若菜を抱きしめ目を閉じ、もう一度眠りに落ちて行った・・・・・
 




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