大切なあなた

キリ番9000Getされたりんりんさんよりのリクエスト
綾瀬と悠二の出会い編








 天使を見つけた。
 たった一人、自分だけの天使を。
 傷ついた心を、一瞬で癒してくれた小さい天使。

この天使を守ろう

 まだ幼かった自分が強く心に誓った瞬間だった。
 このとき悠二、7歳。
 綾瀬、2歳。
 初めて二人が出会った。




 悠二は5歳の時に母親を事故で亡くした。
 それまでは大手アパレルメーカーの社長である父淳弘、元モデル
 の母と三人幸せな生活を送っていた。
 しかし母が死んでから、父は寂しさを紛らわすかの様に仕事に没頭。
 事業を拡大し、それまででも充分忙しかった仕事に拍車をかけ、殆ど
 家に帰って来る事が無くなった。

 その為、悠二は大きな屋敷で家政婦と二人きりで過ごしていた。
 父親が殆ど家に帰って来ないのをいい事に、その家政婦は悠二に満
 足な食事も与えず、時には暴力を振るう事も。
 見た目では全く分からないが、服の下は痣だらけ。
 体重も段々減って行き、明るく、何時もにこやかだった顔から表情も
 消え、全く喋らなくなっていた。

 淳弘は偶に帰って来ても、悠二が大好きだった母親が死んだショック
 で笑わなくなったのだろうと、勝手に思い込んでいた。
 そして2年の月日が過ぎて行った。

 小学校に入学してから、更に悠二は殻に籠もってしまった。
 慣れない集団生活。
 家政婦のから受ける虐待に心を閉ざしてしまっていた。

 母親がいない事を聞かされていた学校側も、初め見守るだけだった
 が、2年になっても全く変わらず、逆にどんどん内に籠もり、時には怯
 える表情をする悠二を訝しんだ。
 そして学校から直接、父親の会社に連絡が行く。
 学校から連絡を受け、ここ一年まともに息子悠二に会って居ないこ
 とに気づき久しぶりに家に帰った淳弘。

 悠二の姿を見て驚いた。
 一年前見た時以上に痩せ、顔には生気が全く無かった。
 こんなになるまで放っておいた事に深く反省し、その日からなるべ
 く家へ帰る様になった。
 主人が居ないのをいい事に、散々好き勝手してきた家政婦。
 毎日淳弘が帰って来るようになった事で好き勝手が出来なくなり、昼
 居ない時間帯に悠二をこれまで以上に虐待し始めた。
 だがその虐待が漸く明らかになう出来事が。

 淳弘が悠二を連れて知人久我山正道の新年のパーティーに出た時
 の事。

「こんにちは悠二君。 小父さんの事覚えてるかな?」

 淳弘の後に隠れる悠二。
 顔色悪く痩せ衰えた悠二を痛ましげに見て、怯えさせないよう優しく
 声をかけてきた。
 その主催者の腕の中に大きな目、真っ白な肌、ふっくらとしたピンク
 の頬と唇の幼い天使がいた。
 怯える悠二に笑いかけ手を伸ばして来た。 

「ん? 綾瀬はお兄ちゃんの事が気に入ったのかな」

 愛おしそうに腕の中の天使を見つめる。

「悠二君。 この子は綾瀬。 仲良くしてあげてくれ」

 天使を抱き、父親正道が優しくにこやかに悠二に話しかける。
 何に対しても反応を示さなかった悠二。
 淳弘の後から恐る恐る綾瀬を呼ばれた天使に手を伸ばす。
 天使は笑い、正道の腕の中から身を乗り出し悠二の手を掴む。
 そして何か一生懸命話しかけてくる。
 柔らかく温かい手。
 その様子を二人の父親は微笑ましく見ていた。

「良かったな悠二」

 悠二は見詰めたまま微動だせず。
 天使はさらに身を乗り出す。
 父親が落ちないよう、少し身を屈めると綾瀬が悠二に抱きつく格好
 に。
 そしてニッコリ笑って、チュッと可愛らしくキスをした。
 可愛らしい子供達の様子に、周りにいた大人達も目を細める。

「こらこら、綾瀬。 お兄ちゃんがビックリするだろう。 ねえ・・・・・・・・」

 綾瀬を引き離し、悠二を見ると泣いていた。
 大好きだった母が死に、今は側にいるが淳弘も暫く自分から離れ
 て行ってしまった。
 家政婦には虐待され、何に縋って、何を信じていいのか分からず心
 を閉ざしていた悠二にとって、心からの綾瀬の笑顔はとても眩しく、得
 難いものだった。
 傷ついた心が癒されて行く。
 その瞬間、今まで閉じこめてきた思いが、寂しく、痛く、恐かった気
 持ちが一気に溢れ出てきた。
 
「悠二?」

 突然泣き始めた悠二に戸惑う淳弘。

「うわぁ――――――――っ!」

 悠二はそのまま床に倒れ込み、号泣し始めた。
 辛かった2年の歳月を流すかの様に泣き続けた。
 会場にいた全員が、悠二の悲痛な叫びに心痛め見守っていた。

 初めて、淳弘は自分の間違えた勝手な思いこみに気づいた。
 淳弘は悠二を抱え、友人が用意した別室へ。
 その場にいた、年離れた綾瀬の兄が『この子供は虐待されてる』と言
 いったため、淳弘はそんな事はしていないと激怒したが、服を脱がせ
 ると言われた通りその幼い体には無数の痣が。

「なんて事だ・・・・・」

 多分家政婦の仕業だろうと言われ、自分の不甲斐なさ、家政婦への
 怒りで、家へ乗り込もうとするのを、正道に押しとどめられ報復を練っ
 た。
 
 手始めに家政婦の家族から。
 父親の勤めていた会社を倒産に追い込み、母親は悪徳商法に騙さ
 れ大金を奪い取られ、兄は暴漢に合い入院。
 妹はホストに騙され、莫大な借金をし風俗へ身を落とした。

 悠二は昼は学校、終わってからはそのまま久我山の家へ行き、帰り
 は淳弘に連れられて家へ帰って行った。
 
 悠二が放課後自宅に戻らなくなった事で、家政婦は勤務時間を減ら
 された。
 当然給料は減る。
 たて続く不幸。
 唯一の働き手である家政婦は家族からの金の打診に苛立ち、ストレ
 スがたまって行く。
 ストレスを発散させるための悠二は家には居ない。

 家の中に誰も居ないのをいい事に、家政婦は家の物を、無くなって
 も直ぐには分からないであろう物を持ち出しお金に換え始めた。
 当然そんな事を予想していた淳弘は、家に隠しカメラを幾つも取り付
 け、家政婦の行動をビデオに撮り、人を付け監視していた。

 久我山の家に行くようになった悠二。
 虐待もなくなり、久我山の家族の温かさに触れ、食欲も出てきた。
 顔つきも明るいものへと変わっていく。

 家政婦を見張り初め一週間。
 最後の仕上げと、悠二にはすまないと思ったが「最後に一度だけ協
 力して欲しいと」
 頼んだ。
 恐かったが、自分と同じ様な目に合う子供が二度と出ることがない
 様にと、承知した。

 一人では心細いだろうと、悠二より三つ上の、綾瀬の兄貴章も悠
 二の家に行く事に。
 貴章は悠二の虐待を指摘した子供。
 その為か悠二は貴章を信頼していた。

 当時5年生の貴章。
 身長は悠二より2pだけ高いだけ。
 小柄で少女のような整った顔立ちだが、その年齢にはあり得ない
 ほど冷めた瞳をしていた。

 案の定家政婦はかかった。 
 ストレスを発散出来る悠二と、同じくらいの身長で少女のような容
 姿を持ち華奢な貴章。
 態度と蔑んだ視線を向ける貴章が気に喰わず殴ろうとした。
 幼く華奢であっても武道を習っている貴章はそれを素早く交わした。
 殴るのは無理だと分かったのか今度は物を投げ始めた。
 貴章は悠二を安全なソファーの後ろに隠し応戦した。
  
 投げる物が無くなった家政婦は、近くにあったゴルフクラブを握り
 絞め貴章に殴りかかる。
 それをあっさりと交わし、鳩尾に蹴りを。
 強烈な蹴りに倒れ、動く事が出来なかった。
 ドアが開き、淳弘、正道、そして数名の男達が入って来る。
 淳弘達の登場に家政婦は直ぐさま駆け寄り、子供達に暴力を振る
 われたと訴えた。
 蹴られた時に鈍い音がした、骨が折れたと胸を押さえながら。
 その言葉に別室にて様子を窺っていた親達の怒りは頂点に達した。

「よくもそんな事を言えたものだな。 貴様が今まで悠二を虐待してき
た事も調べはついている」
 
 家政婦は顔も真っ青にし、「自分が子供に暴力を受け、家からは
 何も持ち出していない」と言い張った。

「貴様は知らないだろうが私達は別室で全て見ていた。 よくも私
を騙してくれたな。 今の映像をビデオに撮ってある」

 そう言い、家政婦の行動を纏めた、写真付きの報告書を目の前に
 突きつけた。
 家政婦は観念し、その場に項垂れた。

「お前が私の家から持ち出した物は全てお前の親に支払わせた。 
連れて行け!」

 淳弘達と一緒に居た男達に両脇を抱えられ部屋から連れ出され
 る。
 警察には突き出さず、悠二に手を出した事を一生後悔するよう、
 裏の世界の男達に引き渡した。

「悠二、辛い目に合わせてしまってすまなかった。 貴章君、悠二を
守ってくれて本当にありがとう。 久我山、お前にも礼を言う」

 淳弘は悠二の元に駆け寄り、抱きしめた詫びた。
 貴章と正道にも、悠二を守って貰った礼を言う。

 この事があり、悠二は強くなりたいと思った。
 貴章の様に、人を守れる様に。
 悠二の心を救ってくれた綾瀬を守れるよう、側に居て相応しい人物
 になれる様にと。

 

 それからの悠二は別人の様になった。
 貴章と同じ道場に通い始めた。
 その後、綾瀬が自分と同じ男だと知っても、綾瀬の為だけに自分
 を磨いた。
 
 一年後には新しい母親が出来た。
 とても優しく綺麗な母。
 そして翌年に弟が出来た。
 血の繋がっていない悠二にも同じ様に愛情を注いでくれた。
 性格も明るくなった。

 空手道場に通い、身体を鍛え、勉強も頑張った悠二。
 お陰で、中学は難関だと言われた、貴章も通う名門進学校に合格。 
 生徒会の役員もこなした。
 中学を卒業する頃には、すっかり体格も良くなっていた。
 これも全て綾瀬のため。

 綾瀬の事は初めて会った時から、特別な存在で、大好きだった。 
 天使の様に愛らしい顔は、年々華やかな美貌の母親に似て行った。
 お陰で変質者に狙われる事も度々。
 綾瀬も悠二達と同じ空手道場に通っていたが、行きも帰りも側にい
 て悠二が尽く排除して行った。

 最初自分に誓った様に、綾瀬の事を必死で守った。
 時には貴章の手も借り。
 綾瀬が同じ中学に入ってからの困った事が起こらない様、自分の
 地位も確率した。
 これで、綾瀬の回りは安全だと思った。

 そんな綾瀬への気持ちが普通ではないと気が付いたのは、綾瀬
 が悠二達と同じ中学に入学した時。
 
 制服姿は綾瀬の気品と美貌を引き立てていた。
 自分と同じ制服を着た綾瀬を見た時、天使であった綾瀬が、急に自
 分と同じ人間となり心に入り込んで来た。
 見慣れていた綾瀬が自分の知らない人物に見えた。

 それに気付いてから、側にいると胸がドキドキし意識するようになっ
 た。
 友人に相談すると「それは恋だ」と言われた。
 綾瀬を恋愛対象として見ている事に愕然とし悩んだが、気持ち
 に気づいてしまった悠二はハッキリと綾瀬に「好きだ」と告げた。
 驚き綺麗な顔を怒りに染め「ふざけるな!」と言い、悠二を殴った
 のだ。

あれは痛かったな・・・・

 それから悠二は綾瀬に「好きだ」と言い続け、綾瀬が悠二を受け
 入れてくれるまで5年の月日がかかった。
 

 
「綾瀬〜、愛してる。 俺達も若菜ちゃん達みたいにラブラブになろう
な」

「うるさい!」

 背中から抱きついてくる悠二を怒鳴りつける。
 顔を背けているから悠二には見えないが、綾瀬の顔が赤くなって
 いた。

 綾瀬は教えてやらない。
 本当は自分の方が先に悠二の事が好きになった事など。
 何時も自分の事を必死で、守ってくれた姿に惹かれた事を。

 綾瀬が一生懸命、悠二に好きだと身体全体で表していたのに、全く
 気づいて貰えず、すっかり捻くれた性格になってしまった事を。

お前が悪いんだぞ・・・・・・

 振り返り恨めしそうな顔で悠二を見詰める綾瀬だった。




何だか暗い話しになってしまってすみません m(_ _)m
出会い編との事でしたが、悠二暗い過去編になってしまいました。




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