三文の得?






『早起きは三文の得』

なんていい言葉なんだろう。

 草太は朝起きてから何度この言葉を心の中で思った事
 だろう。
 それは、どれも些細な事だったが幸せな気分だった。

たとえば

『朝目覚ましが鳴る前に起き、カーテンを開けたら雲一つ無い
綺麗な青空』だったとか

『目玉焼きを作ろうとしたら、双子』

『一限からの授業だが、散歩しながら行こうと早めに家を出たら
同じ階に住んでいる美人OLに挨拶された』

『いつもと違う道で駅に行く途中で百円拾った』とか。

 本当に些細な事だった。
 電車もそこそこ空いている。 つり革に掴まり外の景色を眺めて
 いた。

キキキキキィ―――――

 電車が急停車した。
 軽くしか握っていなかったせいでつり革から手が離れる。

うわっ、ヤバイ!!

 倒れそうになったところを横から腕を捕まれる。
 ホッ、と息を吐き自分を助けてくれた人物にお礼を言おうと横を見
 る。
 目の前にはロイヤルレジメンタルのネクタイが。 そのまま顔を
 上げ、思わず見惚れてしまった。
 周りのOL、女子高生達も見惚れている。
 161pしかない自分より頭一個以上は違う長身。 太く整った眉
 力強い瞳、日に焼けた端正で何処か野性味帯びた顔だった。
 着崩したブレザーなのに、それが良くに似合っていた。

同じ男とは思えねーな。 これって鳳学園の制服だよな。 あのT大
に何人も合格者出してる進学校か・・・。 頭良くって、顔も良くって。 
不公平だよなー。」

 大きな目をクリクリさせながら見ていた。

 そんな草太を見て慶吾は獲物を見る目になっていた。
 自分より一つ後の駅から乗ってきた時から目を付けていた。 もろ
 好み。 そしてさり気なく横に移動。 どうやってモノにしようか考え
 ていたとき、運は自分を味方した。 電車の急ブレーキが掛かった
 瞬間さり気なく、草太に分からないように服を引っ張り、倒れさせた。
 そんな慶吾の策に草太は、まんまと引っかかった。

「ありがと。 助かったよ。」

 にっこり笑って礼を言う。 年下だけと初対面。 助けてくれたからには
 丁寧に礼を言うのは当たり前。 

倒れそうになったのに助かったのは、早起きしたお陰だな。

 自分が狼に狙われた、哀れな子羊だと気が付いていない。
 ニコニコしながら、慶吾を見ていた。

「いや。 気にするな。 役得だな。」

「・・・・・・・・。」

 どういう意味だ?

 考え眉間に皺が寄る。 

「お前可愛いから。」

 ニヤリと口元で笑いながら言う。

「!」

今まで気分が良かったのが飛んで行く。

可愛いだと! ふざけんな。 確かに女顔だよ。良く間違えられるよ。
チカンにも遭うし・・・。 幾ら目がクリクリしてたって、小顔で口が小さ
くったって背が低くたって、俺は男なんだよ――――!!
それに、『お前』だとー。 大学2年なんだよ。 お前よりは確実に二つ
は上なんだよ。 ちょっと俺より背が高くって、顔が良いからって・・・・・。

 下を向きながらブツブツ言っている。 怒りで顔も耳も赤くなっている。
 
照れてるのか・・・。 

 勝手に思い込んでいた。
 
 大きく深呼吸を繰り返し、自分を落ち着け顔を上げ慶吾を見る。

「そうか、ありがとう。 はい、お礼。」

 ニッコリ笑いながら、ポケットの中に入れておいたガムを渡し、鞄から
 本を出し前を向いて読み始める。

 一方、ガムをお礼に貰った慶吾は、サクッと交された上に子供のよう
 に扱われた事に呆然としていた。

この俺が・・・・・。

 こんな扱いを受けたのは初めてだった。
 俄然やる気になっていた。

折角の気分が台無しだ。 視界から排除するに限る。 まだ動かないの
かな・・・・。

 タイミング良く放送が入る。

『お急ぎのところ申し訳ございません。 只今線路上に異常が遭ったため
電車急停車いたしました。 確認の為今暫くお待ち下さい。』

うわっ、マジかよ。

「おい。」

こんな失礼な奴とまだ一緒・・・・・・・。

「おいっ。」

う〜ん、でも移動するのも如何にもあからさまだし・・・・・。

「おい!」

 腕と顎を掴まれ、横に向けさせられる。

「うわっ。 なんだよ。」

「気に入った。 付き合え。」

 遠くの方で「いや〜!慶吾く〜ん」と女子高生達の声が聞えてくる。

「はぁ? 何言ってんの? お礼ならしただろ。」

「あんなの、礼にもならん。 礼っていうのはこういう事だ。」

 そう言ってキスをして来た。

「キャァァァーーー!」

 女子高生達が叫ぶ。 その声に驚き周りの乗客もその方向を見ると
 視線の先では、朝からかなりディープなキスが繰り広げられている。
 その風景にそれぞれ固まっていた。

ぎゃーーー。 なんて事すんだよー。 

 離れようと必死に藻掻いたが、体格が違いすぎる。 慶吾は思う存分
 草太の唇を味わう。
 ようやく唇が離れた時にはかなり疲れていた。
 
「てめぇ・・・・ゼイ・・・ふざけんなよ・・・・・ゼイゼイ・・・・・。」

 息をきらせながら文句を言う。
 
 その態度に目を見開き驚く。

おかしい・・・・他の奴らならこれで確実に落とせるのに・・・・・。

 もう一度、草太にキスをする。 今度は舌を入れ口の中を蹂躙する。
 舌を絡ませ、吸い上げる。

これでどうだ!

 かなりムキになっていた。 

 一方草太は、またキスをされかなり怒っていた。 最初はこんな公共の
 電車の中でキスされたことに、怒っていた。 次にまた無理矢理キス
 された事に怒っていた。 そして、こんなキスで自分を落とせると思って
 いる、この男に切れた。

「ん!!」

 あわてて離れる。 草太が舌を噛んだのだ。
 ショックだった・・・・。 かなりプライドが傷つけられた。

「こんなんで、俺を落とそうなんて百億年早いんだよ! だいたいキスっ
ていうのはこーゆーんだよ。」

 そう言ってネクタイを引っ張り、今度は草太がキスを仕掛ける。 舌を絡
 ませ、吸い上げ、歯茎を舐め上げる。
 そうしている間に車内放送が入る。

『お急ぎのところ大変ご迷惑をお掛けしております。 只今線路を点検し
たところ安全確認されましたので、電車出発いたします。』

 しかし二人には聞えていなかった。
 
 慶吾は今まで自分のテクに自信を持っていた。 
 高一ながらかなり遊んでいた。 外見のお陰で私服の時には高校生に
 は見えなかった。 制服を着ていても、瞬間高校生には見えなかった。
 自分から行かなくても、女の方から寄ってくる。 そして確実に落ちてい
 た。
 その自分が否定された。 挙げ句に相手からのキスに翻弄され夢中に
 なっているなんて・・・・・・。

俺が落とされるのか・・・・。

 そんな二人を周りの乗客達は口を開け呆然と見ているだけだった。
 
すげ〜・・・・
凄〜い・・・・
 
 と思っていた。

 次の駅に停車する直前に草太が離れる。 唾液に濡れた自分の唇を舐
 め、慶吾の濡れた唇も舐める。

「このぐらいのテクになってから口説けっつうの。」

 今度は軽く啄むようにキスをする。
 その小悪魔的仕草と瞳にクギズケになり欲情した。
 丁度駅に着きドアが開く。 慶吾は無言で草太の腕を掴み電車を降り改
 札を出る。

「お、おい。 待てよ。 ちょっと〜〜〜。」

ヤバイやりすぎた・・・・・・。

 悔やんでも悔やみきれない。 ホテルに連れ込まれ美味しく頂かれてし
 まった・・・・?

 
 キスの時と同じように、途中から逆転し草太が美味しく頂いてしまい、そ
 のテクに慶吾が落ちてしまった。 結局なんだかんだで付き合う事に。



 男前な彼氏をGet・・・・・。 


これも『早起きは三文の得』の『得』なのか・・・・・・・?



            





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